こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

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『造花の蜜』 連城三紀彦 著

2008/12/13(土) 13:42:04 連城三紀彦 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 私がこの作品の評判を知ったのは11月の後半になってからでした。
 奥付を見ると、2008.10.31……『早ミス』は論外として『本ミス』『このミス』ともにランキングのアンケート回答の締切日ですよ。(事実、アンケートでこの作品を挙げた人は少なかったし)
 ていうことは、この作品がそういうものを見越して出版されたんじゃないってことかなあ。
 それにしては、もったいなさすぎるほど素晴らしい作品だったんですけど!
 なので、広くオススメです!
 未読のかたは、絶対にこの先にはお進みになりませんよう。




誘拐ミステリとだけ聞いていましたが、まさかこんな展開になるとは……!
さすが連城マジック!
騙しのテクニックが炸裂してますよ!

離婚して幼い息子と共に実家に帰った香奈子。
ある日、スーパーで息子の圭太が何者かに車に押し込められて誘拐、されそうになり、最近自分が尾行されているような感覚を強くしていた香奈子は、圭太の身のまわりに一層の注意を払う。が、幼稚園の先生から“圭太が蜂に刺された”という電話を受けた香奈子が幼稚園に駆けつけると、先生は“お祖母ちゃんが蜂に刺されて病院にいる、と言われた。お母さんが迎えに来たので圭太を渡した”と言う。混乱した香奈子だが、この誘拐事件はその後奇妙な展開を見せる……。

香奈子という母親がまず何か重大なことを隠しているし、香奈子の実家の家族がまたどうにも薄ら寒い人たちばかりで気が滅入る。
圭太の利発さと誘拐とが、薄皮一枚挟んだような噛み合わなさ。

最初は読むのが辛かったんですよね。
何でかノれないなあと。
誘拐というものが大抵、最悪の結末になるのは現実の事件にはよくあることで、フィクションとは言えこういう犯罪小説は日頃から好んで読まない所為かもしれない。
おまけに、妙に長い、いや分厚い…。
最後まで読み切れるか自信がなかったんですけど…。

いやいや半分を越えたあたりからはもう一気読みでした!

まさかこんな展開だなんて、予想もしてなかったですよ!

圭太の誘拐を騒動として裏で莫大な身代金を要求する、またその被害者は絶対に警察には届けられない隠し金を狙う犯人。

犯人の一味としてマスコミに公表された彼がパニックになって逃亡しようとして結局警察に取り囲まれる、その光景が圭太の誘拐の二重写しになっててこんなオチがくるなんて!
何度「えええ?!」と叫んだことか。
まさしく“ラスト一行で世界が反転するミステリ”なんですが、それがラストじゃなくまた1回きりじゃないのが……!!おかげで作品全体がものすごい厚みを増していますね。

凄すぎます。お見事としか言いようがない。

有栖川先生の『マレー鉄道の謎』のように、なんかしっくりこない、裏で糸を引く人間がいるはずだ、という二重底の真相とはまた感じの違う、二転三転するこの作品。
何枚もの鏡を向かい合わせて、同じ物を映しながら実は少しずつ映り込むものが増えているような…。
それともド近眼の人が裸眼で見ている世界と、あまり合っていないけど近くを見るには十分な眼鏡を掛けたときの視界、そして視力に合わせて誂えたコンタクトレンズを入れてはっきりものを見た時の衝撃…。
上手く言えないけど、こんな感じがします。


冒頭から圭太の誘拐までは香奈子の視点、そのうち警察、の若いエリート、橋場警部を中心とする警察関係者の捜査視点にスライドしていくんですが、全く自然で最初は気が付かなかったくらい。
この視点のずらしによって、香奈子の抱える秘密の暴き方がひとつのクライマックスとして利いてくる。
また、捜査の過程で浮上する犯人一味の1人、その存在感が次の章の本人の視点で十分に活かされるようになっていて、この誘拐事件の仕掛けをますます面白くしている。そしてそれは、香奈子の秘密がどこまで本当なのか、主犯の大義とどこまで同じなのかも確信できなくする、その不確かさが……。

圭太の誘拐が表舞台、裏で大金をいただくという計画の、その練られ方が綿密すぎて、さすがにこんなの現実にはあり得ないだろうなあと感心しましたが、もしこれを実行に移すバカがいたら、さしもの警察もこの中のようにしか動けないでしょうねえ。

この女王蜂は、一体何人の働き蜂を操っているのか?
どこまで自分の眼で見て動いていて、どこからが働き蜂の仕事なのか?
真相を警察に送りつけた、あの手紙はどこまでが真実なのか?
警察をここまでコケにする理由はあるのかないのか。
そして。
女王蜂とは一体誰だったのか??
結局、正体は明かされないまま終わりますが、だからこそ、読んでるこちらも、川田と同じようにいつまでも女王蜂に操られたままのような気分になるのでしょう。

川田が自分の意思で父親の元に帰ったわけじゃなく、女王蜂の“命令”によるものなのは明らかですしね。
“潔白の犯罪”とか“無垢なお金”とか“誇り高い自分”とか、詭弁にもほどがあるけれども(実際読んでいて虫酸が走りましたよ私…)、それを信念として生きているだけに性質が悪すぎる。

このお話に決まった探偵役は置かれていないんですが、橋場警部は立場上ともかく、川田という犯人一味サイドなのに事件の真相を全く知らされていないというポジションまでが謎解きを導くことになるとは……書き手が上手くないと出来ない芸当だと思う。

で、お話をこの川田事件だけにしておくのもひとつの方法だと思うのですけど、最後の最後に、こんな事件を持ってくるとは…!

まさか橋場警部の正体が……!ということは…、なんだか東京の圭太事件の方で捜査の指揮をとった橋場警部のことまで疑い出してしまうし。
前回の事件を綺麗にトレースしているのに、“赤いバック”が“黒いトランク”になったのか、そのあたりで気が付かないといけなかったんだわ。

この最後の事件、康美までがほぼ共犯関係であったからこそ出来た事件ですが……てことは、この犯人一味というグループは、決まった人間ではなくて際限なく増殖しているのかもしれない。それほど女王蜂という存在は、ネットの匿名性に似た不確かさでありながら大きなものなんですね。


どう書いても、ちっともこの作品のアピールにはなっていない気がしてしょうがないのですが、それは私の力量不足ですから。
最初に書いたように、これはランキングを度外視したのでしょうから筋違いかもしれませんが、それにしてももったいなさすぎる!もっと早くに出ていれば、上位にくること間違いなし!だったと思うのですわ。

浮ついたところのない、素晴らしいミステリを読ませていただきました!
忘れられない作品として、来年末のベストに挙げていると思います。


(角川春樹事務所 2008年)
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