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『悪魔はすぐそこに』D.M.ディヴァイン 著

2008/09/03(水) 10:34:43 D.M.ディヴァイン THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
とにかく作品はおろか作者についても何ひとつ知らなかったので、まずは巻末の法月綸太郎先生の解説の、さわりだけ目を通しました。
スコットランドのセント・アンドリュース大学で事務職員をしながら、執筆していたそうです。デビュー前、探偵小説コンクールで、あのクリスティに絶賛された才能の持ち主。1980年に亡くなるまでに(…えっ?享年六十歳?若っ)コンスタントに高水準のミステリを発表したそうです。
読了してみて、なるほどクリスティがべた褒めしたのがよくわかりました。
帯に、<パズラーの極意を知り尽くした云々>とありますが、エラリー・クイーンの徹底したロジックやディクスン・カーのような不可能犯罪の趣とは違います。クリスティの……言葉は悪いですが…粘っこい人物描写や心理状態の移り変わりといった雰囲気と遜色ありません。女王のお弟子さんみたいな感じ。(ただし、私はもう一人の英国ミステリの女王、セイヤーズの方が好きですが)


ハードゲート大学の数学講師ピーターは、亡き父の友人であるハクストン博士から助力を求められる。自分に横領容疑がかかっており、このままでは解雇されてしまう、それを画策しているシモンズ教授に近い人物で、ピーターの婚約者でもあるルシールから、情報を聞き出して欲しい。
頼まれると断れない性格であり、他人の目を必要以上に気にするピーターは、ルシールに話を持ちかけるが、ルシールは嫌悪感どころか憎しみをもってハクストンの存在を拒絶する。進退窮まったハクストンは、審問の場で秘密をなにもかもぶちまけてやる、と言い放った後、謎の死を遂げる。不可解な現場の状況と、ハクストンの脅迫めいた言葉に学内の誰もが困惑しているなか、第二の殺人事件が発生。
法学部長のラウドン教授、事務員のカレン、そしてピーターとルシールは事件の真相を探っていくが、事件の大元は八年前に起きた、ピーターの父であり、天才数学者だった亡きブリーム教授のある事件だった。

パスラーとしてどうこうより、人物描写の上手さにミステリの楽しさが凝縮されているような気がします。なにより物語として面白くて、ページをめくる手が止まらない。
ピーターのうじうじした性格、対してルシールのなんとも男前な魅力。ラウドンや化学科教授のミリガン、財務局長のマシューズに事務局長のハンフリーズといった中年から壮年の屈折した内面。活躍する女性はみな見惚れるほどの美貌だったり、チャーミングだったり。
途中まで隠されている人物の情報もあるし、犯人や容疑者の一人が捜査を攪乱していたりで、単純なストーリーではないけれども、スピードは決して落ちない。注意して読んでいけば、なんとなーく真犯人の見当もつきます。実際、私の思ったとおりの人物が真犯人でした。
解説の法月先生が書いておられるように、この作品の真骨頂は、一読して犯人を知ってからの再読の必要性かもしれません。真犯人の目線にたって心理状態を把握しながら読むと、全然違う印象をもつでしょう。いってみれば倒叙スタイルかも…。

このミステリは、人物描写が全ての鍵です。

クリスティがお好きな方なら、多分この作品も気に入るはず。

エラリアンであり、エラリー・クイーンの国名シリーズが本格ミステリの代名詞だと信じている私は、この作品をガチガチの本格と呼ぶのは躊躇いますが、黄金期のミステリの形態であることは確かです。

これからも創元推理文庫で邦訳が出版されるそうなので、楽しみに次の作品を待っていようと思います。
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