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『チャイルド44』トム・ロブ・スミス 著

2008/11/08(土) 17:30:59 海外ミステリ THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 東西冷戦真っ只中のソ連を舞台にしたミステリ、ということで、ネットでは絶賛の嵐。
 一抹の不安があったものの、映画化される前に読んでおこうと思いました。
 うむむ。なんと言っていいのか……。
 面白いことは面白いです。でもこれは、馴染んだ本格ミステリじゃないと思うし、そもそも描写に引いてしまうシーンもあります。
 少なくとも、ねこ好きさんと、子ども好きの人には辛いです!
 ただ、それを補ってもお釣りが来るくらいには、よくできてます。
 なので、読むかどうかは、その境目にかかってますので、なるべくぼかして書こうと思います。





今年29歳という若いイギリス人の本書がデビュー作となる、文庫上下巻。

いやもうのっけから、ねこの受難で泣きそうになりましたよ。
救いは、よくある(いやあっては困る)動物虐待ではなくて、餓死寸前の村にあって、ねこは涎が出てくるほどのご馳走であり、生き延びる為に手段も感情も忖度できない状態だということでしょうか。
虐待を快楽とはしていないので、生きるか死ぬかの瀬戸際、ぎりぎりの人間には、自分と家族以外の動くものはすべて食料。
まずそこからして、飽食の時代に生まれ育った私には想像もできないんですが。

そして舞台がスターリンが神格化されて間もないソ連、国が国民を充分に満足させているのだから、感情の暴発による殺人などの凶悪犯罪など存在しないという大前提。
どこをどうしたらそんなテーゼになるのかさっぱり分からないんですが、訳者によるあとがきに、現在のロシアではこの『チャイルド44』が発禁書に指定されたというから、その措置がますます仔細に描写されている当時の国のありかたを肯定しているようなものだと思います。

とにかく、殺人事件を専門に扱う部署が存在しない、殺人はソヴィエトという社会にとって害をなす人間か役に立たない人間の起こしたものだという建前は、そりゃ実際に連続殺人事件が起こってもしょうがないよ。家族すら騙せるほどに表と裏の顔を使い分けられるほどの役者なら、シリアルキラーの資格も持ち合わせてるとは…。国家保安省の目もスパイも怖いけど、非力で善き隣人であるはずの市民さえ信じられない世界なんて…。

で、この物語の主人公であるレオ。
国家保安省の若き超エリート、容姿端麗で冷静沈着。国家に何の疑問も持たず組織を100%信じて無辜の人たちを逮捕し続けた、ソヴィエトという国の象徴。
部下の息子が殺されたらしいというのに、あっさり事故だと言い聞かせてお終いにした、ロボットのような人。
その彼が、彼を妬んだ部下の罠に嵌まり失脚、妻ライーサと共に地方の村に左遷される。失意の中、モスクワで部下の息子が殺された事件とほぼ同じ死体が発見され、国の方針に逆らってレオはシリアルキラーを追いかける。

まず冒頭に、ねこを殺して食べようとした幼い兄弟が出てきます。
そしていきなり20年後。
国のロボットのようなレオを巡るライバルや妻ライーサの心など、上巻の2/3までがレオを取り巻く環境の激変に費やされるサスペンス。
何も考えてなかったレオが、自分の意思を持ちライーサと真摯に向き合い、宿敵とも言うべき元部下ワシーリーの魔の手を逃れて、今まで培った知識と能力を総動員して闘い、出会った人を信じようとする。アイデンティティの確立ですね。

ライーサとの冷たい関係がレオの愚かしさと孤独をより一層際立たせていて、よくある“周りはすべて敵だけど、愛する家族だけは自分の味方でいてくれる”という甘えは皆無。
実はそれが一番好感が持てました。
レオに過度の感情移入することもなく、ライーサに味方することもなく、ただ北極と南極ほども遠かったこの夫婦が、どこまで協力して生き延びることができるか。
最後はこの2人、どうなるんだろう?
ラストまで読者を引っ張る力があるのは、間違いなくこの夫婦の特殊な関係だと思います。

スターリンの革命をより完成させる為に、社会にとって不利益なもの、理想上理論上あってはならないもの(…こう書くとオーパーツみたいですね)を排除する為には、正式な書類も手続きも一切必要ない社会って、ドイツのナチとやってることは全く一緒です。
今の日本が、恵まれた生活をして親切で犯罪なんてしそうにない人が意外や犯人だった!という漠然とした不安感に苛まれているのに対し、この共産主義という社会は成り立ちが既に恐怖政治。
そんな恐怖感をくどいほどに書き込んでおいて、さて実はシリアルキラーだエライこっちゃ!という展開になって私達が知識として知ってる捜査が出来ないというじれったさ。
何度も何度も追っ手に捕まりそうになりながら、それどころか再三ワシーリーの手に落ちながら、それでも諦めずに脱出しえたレオ。自分が正直になれば相手も自分を信じてくれるという、イデオロギーに関係なく人間として大事なものを学んでいくレオに、ハードボイルドとかミステリとかを超えたドラマチックさがあります。

このプロットは、ある程度ミステリを読み慣れた人なら、シリアルキラーの正体はすぐに見当がつくと思います。私も早い段階で分かったし。(これを本格ミステリとは言えないと思うのは、こうして真犯人があっけなく分かった所為でもあります)
ただ、この真犯人の、人物像の描写や動機とか手口とかに、若干の無理があるような気は、かなりしますね(苦笑)。特に子どもを殺して死体を損壊した後の、グロテスクさがどうも動機と繋がらない。
それよりも意外だったのは、レオの過去。
どこで繋がるのかと思ったら!そうきたかー!
知的障害の子どもや孤児が数多く登場するのも、ねこを食料という位置においたのも、この収束のためだったとは。
その意味で、伏線の妙というか新人離れしてるというか。

この作者なら、サスペンス一本とか、倒叙ミステリ(犯人側から見た展開)の方が、さらに特徴を活かせるんじゃないかなあ。

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