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『死写室』 霞 流一 著

2008/09/09(火) 14:20:49 霞 流一 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 この前、図書館に別の本の返却に行った時に、たまたま見かけてチェックしていながら未読だったことを思い出し(今年の2月に発売されてるってのに…)、慌てて借りてきたもの。
 霞先生の数多い作品群を私はあまり読んでなくて、良い読者ではないんですけどね。『スティームタイガーの死走』『夕陽はかえる』しか知らないという……。でも両方とも面白かったし。
 この『死写室』は短編集でして、2000年から2007年までにぽつぽつと『小説新潮』に掲載された5編と書き下ろし3編。全てレギュラー探偵、紅門福助の謎解きです。
 多分ネタバレしてますので、未読のかたは、これより先にはお進みになりませんよう。





“死写室”とは試写室をもじったもの。全部が映画関係の話です。
・昔の映画のリメイク構想が計画されているとある映画撮影所の一室で、旧作の衣装や小道具が入っている筈の柳行李から死体が発見された。【届けられた棺】
・雪が積もった上に撮影用のドラキュラの靴跡がひとつだけ。染料の血糊とマネキンに施されたドラキュラまがいの悪戯、そしてドラキュラの衣装をつけた死体。【血を吸うマント】
・田舎の霧が立ち込める中、バイク事故を起こした彼らが目撃した巨塔とは?そして何故彼は殺されたのか。【霧の巨塔】
・撮影現場では監督の権限は絶大。俳優もすげなく交代させられる。スキャンダルをチラつかせる芸能記者。やがて起こった殺人事件。【首切り監督】
・映画の裏方、美術スタッフ。装飾係達にもプライドはある。事件の目撃者の曖昧な記憶。被害者はどうやって現場に入ったのか?【モンタージュ】
・映画のクランクアップに合わせてマスコミの取材を受ける主演俳優とヒロイン。盗まれたマスクと取材記者に紛れ込んだ犯人。【スタンド・バイ・ミー】
・映画の試写会で、妙な格好で死んでいた嫌われ者の評論家。出入りした人間はわずか。犯人はどこ行った?【死写室】
・小さな映画館のみの単館ロードショー。監督を降ろされた男と映画館の支配人が消えた。【ライオン奉行の正月興行】以上8編。

このうち、【届けられた棺】【モンタージュ】【死写室】が書き下ろし。

で、私はこの書きおろし3編が好き。特に【モンタージュ】は、ロジックがすごい。人間の無意識の思い込みと先入観をモンタージュに見立てて目撃証言の信憑性を揺らがせ、入るところを見られていないはずの被害者がどうやって現場に入ったのか、という一番の謎を、丁寧に解していく過程が美しくてうっとりw

あと【届けられた棺】も、手がかりが揃ってるのに捻りが利いてて素晴らしい。部屋の鍵を持っている人間と、伝票との関連付け、そして消去法。現場に落ちているのはおかしいと思われるものの存在に、もっともな理由付けがしてあって、無理矢理な印象がないんですよ。

反対においおいおいこんなんアリか?と苦笑いしそうになったのが、【首切り監督】と【死写室】。
特に【首切り監督】の方は、事件の背景にあるものはともかくとして、なんで首を切り離し挿げ替えたのか?という問いに、こんな答えを用意していたなんてもう、お口アングリでございます。見たこと無いよこんなの(苦笑)

【死写室】にしても、一歩間違えば反則なんやけど、それなりに伏線はあります。
ただ、私はそれをニオイの描写に結び付けてしまいました…。ミスリードに引っかかったー!そうか、本当の伏線はこっちかーー!…って、本を投げつけるような腹立たしさは全くないので、霞先生にしてやられたんですね。とほほ。

あ、最後の【ライオン奉行の正月興行】は、問題編と解決編に分かれています。解決編に行く前に、じっくり考えてみるのも楽しい。

探偵の紅門さんは、全ての事件において映画スタッフの誰かから依頼を受けた上での関係者です。そして運のいいことに被害者と利害関係がないので、どれだけ容疑者の人数が少なくても圏外に置かれます。
また、警察、刑事とも顔馴染みであることが多く、情報交換もスムーズで捜査の邪魔だと追い出されもしない、ひっじょーに都合のいい立場です(笑)
まあ、短編、それも8編も詰め込まれたもんだから、そんなことでページを取るわけにはいきませんし。

この紅門さんの活躍を他にも読まれたことがあるなら、このジョーク混じりの口調に隠された鋭い観察眼に慣れてるのでしょうが、私はお初だったもので、どういう人かと訝りましたよ、最初は。
でも、理路整然とロジックを組み立てて行く様は、昨年の『夕陽にかえる』にも繋がっていたし、かえって軽いタッチでさくさく読めるという稀有な本格ミステリなんだと分かりました。
霞先生というと、動物ネタのミステリがまずぽんっと頭に浮かぶんですが、今までなんとなく手に取らなかったんですよね。ああもったいない。

図書館に行って、他の作品も借りてこなくては!

長編と違って、目の覚めるような鮮やかさや派手さはないですが、小粒ながらもきっちり纏まりのいいハズレのない本格でした。
先に挙げた2編は、今年のベスト候補にしてもいいくらいです。

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