こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

田中啓文 > 『落下する緑』『辛い飴』 田中啓文 著

『落下する緑』『辛い飴』 田中啓文 著

2008/09/08(月) 07:47:10 田中啓文 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
『落下する緑 永見緋太郎の事件簿』
『辛い飴 永見緋太郎の事件簿』

 『落下する緑』の方は、随分前に読んでましたが、今回その続編というかシリーズ2作目の『辛い飴』が出版されて嬉しくてウキウキと読んでみるとですね。
 前作の方にも触れないわけにはいかなくなりました。読み返してしもた。

 ということで、このシリーズをまだお読みでないかたは、興味がなくて読む予定が無い限りは、これより先にはお進みになりませんよう。





まずとりあえず、記憶の鮮明な(当たり前だ)『辛い飴』の方について。

“辛い”という言葉からも分かりますが、この新作は全て<味覚>のタイトルがついてます。
【苦い水】【酸っぱい酒】【甘い土】【辛い飴】【塩っぱい球】【渋い夢】【淡白な毒】
この最後の【淡白な毒】のみ書き下ろしです。

一篇がそれほど長いものではないので、気楽に読めました。
内容はあえて書かないでおきます。まず前作を読んで、十分に期待に胸膨らませてからこの新作を読んで。すると全然トーンが違ってびっくり。

なので、これはミステリかな?と思う私。
ミステリという意味で言えば、前作の『落下する緑』の方がはるかにミステリらしいです。
この新作はもっとジャズ寄り。まずジャズを始めとする音楽が前面に出ていて(ジャズの専門用語とか楽器のパーツの名前とか、遠慮なしにがんがん出てくるし)、謎解きは割りにあっさりです。
謎解きの方も、人情味溢れるとか情に訴えるといった感じで、人間らしさに重点がおかれてますね。
これがいいのか悪いのか。人それぞれ受け取り方は違うでしょうが……私は前作の『落下する緑』の方が好き。より強く記憶に残ります。

前作『落下する緑』は、色を並べた短編集でした。
【落下する緑】【揺れる黄色】【反転する黒】【遊泳する青】【挑発する赤】【虚言するピンク】【砕けちる褐色】
どれもこれも、すかっと爽快な謎解きです。私が好きなのは【落下する緑】【遊泳する青】【砕けちる褐色】…←これなんて、反則スレスレですけどね。音楽業界ならあってもおかしくはないですが。楽器は生き物ですから。それにしても永見クンの言動が可愛らしいんです。…ですが、一番緊迫感があってスカっとしたのは【挑発する赤】でしょうかね。音楽業界のジレンマとか音楽を愛している人間と貶めている人間の対比とか。

音楽、ジャズが軸であることは変わりないんですけれど、前作は、問題が起きるシーンが音楽以外の所だったり業界の裏側だったりして、バラエティがあったと言うか永見クンの切れ味も鋭くてわくわくするんです。

新作の『辛い飴』の方は、人間関係、心の底での繋がり具合、そういう面がかなりあって、永見くんを成長させたいと思う唐島さんの思いに溢れた感じ。それと、永見くんの「耳」。聴覚というとちょっと違うかな、ミュージシャンにとっての「耳」によって、複雑に絡まりあった糸を解きほぐす、といった感じがしました。
……ああ、そう考えたら、前作の『落下する緑』の方は永見クンの「目」ですね。「色」で統一されたタイトルからもそうだと分かりますが。
でも、『辛い飴』だからと言って「口」もしくは「舌・味覚」じゃないんです。
「耳」。
永見くんにとっては、生きる上で音楽・テナー奏者としての生活が全て。食べることも眠ることも、他の芸術も一般常識も、何一つ重要じゃない。
だから、「耳」によって記憶すること、考えること、演奏することは、食べることであり眠ることでもある。

これで人物造形間違ったらパラノイアなんですが、そんなことは全くなくて、唐島さんじゃないけどこんなオバサンにとっても、永見クンはめっちゃ可愛いwwあちこち連れてまわって、いろんな物を見せてあげたいと思うよそりゃ。

それと唐島さんもいいなあ、と思ったのは、【辛い飴】のラスト。
素直というか心が柔らかいというか。
若い頃に憧れてコピーしていたジャズマンの、様々なアクシデントを乗り越えた姿に感動し自分自身を省みて誰もいないステージで練習する姿と、それを永見クンに見つかった時のバツの悪さからくる悪態がね、五十超えてるのになあー、この人、妙なプライドで凝り固まってなくて、でもベテランとしての矜持はちゃんと持ってる。
いい人だー!いえ最初っからいい人なんですけど。

あと、【塩っぱい球】!
プロ野球の話なんですが、なんですかこのもじり方!有栖川先生や北村先生、太田先生が読まれたら、大笑いされてるんじゃないのかな★
ハチ公の行動の裏はすぐ分かったし、あのイヤミなオヤジの言動も怪しかったのはいいけど、最後にああくるか…。なんか現実の球界にもありそう。

ピアノはねえ…。これはかなり無理があるんじゃないでしょうか。謎の真相の動機は分かるけど、このトリックは…。小説だからこそ考えられる話ですね多分。

最後の毒、一般的な意味の「毒」じゃないのがミソかな。この「毒」じゃなくても死んでいた可能性を否定できないのが関係者の心を余計に重くさせるんですが、ミリカ様(大笑/でもほんまにあの彼女がモデルっぽい)の出自が毒薬として犯人(?)の身に返ったってことで。

次のシリーズ3作目は、どんなテーマで書かれるのか。楽しみ楽しみ♪
永見クンの天然キャラが、いつまでも擦り切れないといいんですがね。

スポンサーサイト
Comment (-)

ページの最初に戻る