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『札幌アンダーソング 間奏曲』 小路幸也 著

2015/06/18(木) 14:33:40 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
札幌アンダーソング 間奏曲 (角川書店単行本)
小路 幸也
KADOKAWA / 角川書店


 はい、天才で変態で超美少年の春(しゅん)くん再び。相変わらず天使のような美少年。中身は……げぶんげふん。
 まずこの表紙イラカトがね……春くん花背負ってますよ、それがまた似合ってるというかぜんぜん違和感ないですよ(苦笑)
 お姉さんたちのお下がりの服もさらりと着こなし、それでこの容貌。天使とは彼のことかと思いますよ普通は。
 普通はね……。
 あ、大事なこと。面白かったです!





わたし、綺麗なもの好きです。美しいものに何より真っ先に惹かれます。可愛い生き物も大好きです。
そして、天才的なひらめき型の探偵も大好物です。倒叙ミステリが好きじゃないのは、犯人側が探偵を舐めてるところがあるからというのもあります。いざ糾弾されたら逆ギレするくせに。ミステリにおいて、ホームズに始まるというか絶対優位の名探偵は、わたしのヒーローなんです。犯人がヒーローなんてありえない。

でも。でもですね。

正直に言います。シリーズ二作目にして書くことじゃないと思うんですが。

わたし、本当に正直、春くんは苦手です。怖いです。容姿にくらくらしそうで、という意味じゃなく、かかわりたくないという意味で。

前作を読んだかたなら分かるでしょうし未読のかたにはネタばらしかもしれないですけど、山森氏は当然、アウトですよ。心とか感情がどうとかごちゃごちゃ言うてますけど、アレはただの鬼畜。そして山森氏本人はぜったいに認めないでしょうが、100%人間です。こちらが真っ当に暮らしていれば関わりになる要因の半分くらいは防御できるんじゃないかと思います。

一方、春くんは、名探偵の要素をみんな持ってて、その上変態さんです。間違えた、天才です。
こちらに隠すことが何もなくても、彼に知りたいと思われたら最後、自分自身が知らなかったことまで嗅ぎ付けてしまうでしょうし、そしてそれを脅しに使うわけでもなくただ膨大な記憶の1ページに差し挟まれて、でも彼が必要だと思ったらまったく躊躇しないでそのページを開いてわたしに見せてくるでしょう。それがわたしの知りたかったことであるはずがない。それまでの人生が崩壊します。
それが怖い。

天使であり、悪魔でもある春くん。

小路作品に根っからの悪人はほとんど出てきませんが(前作の山森氏初登場のように、最近はチラホラと…)、実は、志村春という人は、小路作品の中でも図抜けて悪に近い人だと思ってます。光と闇が表裏一体で、春くんはその一番光も闇も濃くて灼熱と永久凍土の境界線にいる。

ただし、彼はそれを、悪用しない。春くんは卑怯者じゃないんです。品のいい悪の化身とでもいうか。
そしてわたし達人間はみんな、この春くんのように、悪の部分を喜んで飼ってるんですよね。それってたぶん〈無駄〉の部分、言い換えると〈心〉の部分と同じものだとわたしは思う。そう思えば彼も人間なんですが、彼を人間たらしめているのは家族。家族が春くんを飼い慣らしてる。
彼のような存在は別にしても、そういうあやういものを飼い慣らして、わたし達はいかに品良く生きるか。正々堂々と生き抜くか。

このシリーズで読者がたぶん山森氏を許せないとしたら、それは卑怯者だからではないかな。詭弁ばかりで、自分に警察の手は届かないようにしてるくせに欲望は剥き出しで、しわくちゃで下品。
その下品さがさっぱり消えて、品の良いキャラになったのが春くんです。少なくとも春くんは、自分の命をがっつり賭けて生きてる。真剣に。

天才と怪物。この対決を見守る世界は、命の重さは紙より軽い。駒って言うけど、駒の方がまだ重いですよう(苦笑)
でもその駒にも命があって、人生も未来もあって、尊厳や名誉だってある。天才や怪物に左右されていいもんじゃない、んですよねきっと。

この新作では、もう最初から山森氏の存在ありきで事態が進むので、初っ端から緊張感ビンビンです。
で、一瞬たりとも気が抜けないまま、新たな登場人物で山森氏サイドの人間じゃないのは誰で刑事さんたちが味方だと思ってる人が実は敵じゃないかとか、もう心理戦です。そしてクライマックス。
今回は山森氏は出てこないんじゃないかと思ったら。警察をおちょくって悔しがってる顔を見てみたいとかいうのって、彼は自分なりの興味みたいなこと言うてますが、普通にかなり俗物じゃないですか。なんかものすごく、怪物のランクが下がった気がします。
これはたぶん、春くんの作戦でしょうね。
巨大すぎる敵、実態が掴めない組織の大ボスに、いくら水面下で準備しててもいきなり決着つけようとしたら負ける確率高いし。
多少は自分を囮にしても、それで相手の規模を少しずつ削いでいくことができるなら、最終的な勝率は上がるから。
その意味で、志村家も康平ちゃんも、覚悟してるんですよね。その覚悟が怪物には無いんだと見切ってるから。

つくづく感心します。
小路作品は、こんなにダークなストーリーの中にも、しっかりと「家族」を据えて、真っ当に生きることの厳しさと強さを読ませてくれる。中庸の大切さを思わせてくれる。
天才も怪物もいらない、ただ良心をもって、というより心を持って、しっかり前を見て生きること。
東京BWや他の多くの家族小説、キラキラした子供達の物語、ミステリーやファンタジーなどたくさん書いてこられた小路先生ですが、こんなにヘヴィでダークで変態でビリビリする駆け引きの小説もばっちりで、本当に引き出し多い!

わたしが気になったのは、吉川くん。
彼は敵なのか味方なのか、と思いつつ読んだんですが、今のところの彼は敵の拠点のひとつにたまたま居合わせて巻き込まれた感じですよね。
でもこの吉川くんってもしかしたら、今後も春くんやキュウちゃんたちと繋がっていくのかもしれないキャラやな、と思いました。いずれ本州(実家)に帰る彼は、本州で春くんたちのツテになりそう。もちろん京都にも歓楽街はあるし闇の深いのは現実にあるので、本州ルートのひとつになってそうw(という願望を抱く京都人がここに♪)

新たな仲間が増えて、打てる手が増えたのかといえばそうでもないのかもしれない。表立っての協力体制は取れないですしね、警察と志村家と彼女。
でも、続く第三弾では、もっと命がけの対決になるんじゃないかなと思います。

それと、前作とこの間奏曲と、まったく同じ引用プロローグの伏線がどうやって回収されるのか、もうドキドキしておりますw

表紙カバーイラストで春くんが背負ってる花、下の方にガーベラとラナンキュラスがありますが、上半分はアネモネですよね。
どれも春の花ですが(わたしも最近ようやく覚えました……)、赤のアネモネの花言葉って、「君を愛す」なんだそうです。
意味深ですよねw

ああー、続きが楽しみだー!

(2015.3.30 読了)
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