こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

村山早紀 > 『かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち』 村山早紀 著

『かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち』 村山早紀 著

2015/04/22(水) 01:04:45 村山早紀 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち (集英社オレンジ文庫)かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち (集英社オレンジ文庫)
(2015/03/20)
村山 早紀

商品詳細を見る


 んーと、村山作品の大人読者にとっては、一冊で各話(もしくは長編一本)のテーマが完結せず、エンドマークの後ここから物語が動き出すというのは新鮮ではないでしょうか。わたしはそうですが。
 優しい優しい物語が、また風早の街に生まれました。……風早って、死ぬまでに一度は行ってみたい街ナンバーワンなんじゃないですか?(笑)
 創刊三か月目のオレンジ文庫で、シリーズものがどれくらいのサイクルで続編を出してくるのかはまだ分からないんですけど、できれば早めにお願いします☆



最初に。

泣きませんでしたー!(笑)

……いや、大人として胸にぐっと来るものは何度もあったんですけど、このシリーズはきっと長く続くのだと思います、その間にいくつもの波乱が待ち受けてるだろうし、絶望することもあるだろうし、反対に救われることもあると思うので、昔のとある卒業ソングじゃないですが「でももっと~悲しい瞬間に~涙はとっておきたいの~♪」という気持ちです。

それと、珍しいことに、猫さんたちに名前がなかったですね、今はまだ。
これから例えば、茜音ちゃんがつらいとき、マダムやカーレンちゃんが泣きたくなったとき、紅林くんに奇跡が起きて猫を撫でられるようなシーンのときに、猫さんたちも個性が出てくるのかな。

茜音ちゃん、健気でいい子。本当に。
……でも、だからこそ、お母さんのましろさんにとっては重い子でもあるんだと思う。もちろんかけがえのない一人娘で、シングルマザーとして頑張りたいんでしょうけど……頑張っても結果の出ない自分のそばに、超がんばってしまう子が居ると、自分がますます追い込まれてしまうのよねたぶん……。
茜音ちゃんがそれを知るときがきっと、彼女の挫折の一要素になっていくような予感がします。
母と娘はこじれるもんです。経験上。

幽霊になってしまった、天才人気漫画家の紅林玲司くん。まだ学生さんだってのに突然死というか過労死って……。
生きてもうちょっと普通の人だったら……と想像しようとしたけど、できませんでした。彼はもう天才漫画家で幽霊さんでしかありえないキャラクタでしたわたしの中では(苦笑)
それだけ、彼のキャラ設定は必然というか、茜音ちゃんにとっては自然なものでした。もし生身だったら、尊敬と憧憬と少しの反発も覚えただろうし、「このひとが笑ってくれるなら描いてあげたい」というのは相手が亡くなってるから思えることだと思うし。でもそんな茜音ちゃんの無垢な思いやりは、この物語の柱だと思います。

そう、茜音ちゃんは健気で、それ以上に無垢なんです。
純粋培養じゃなくて、無自覚の強さと、自覚してる弱さと、ほんの少しだけ持ってる自信から来る揺るぎなさで。
読者のわたしだって無垢が手折られて傷つくのを見たくないけど、そこを通らないと成長できないのも分かってるのが、なんというか世慣れた大人っぽくてちょっと自分が悲しくなりました(苦笑)

かなりや荘は、シェルターです。
傷ついた心を抱えた人が辿り着く、癒しの場所。

マダムが磨いてきた家には店子たちの望むものが、それこそたそがれ堂のように何でもそろってたんじゃないのかな。幸せな記憶とかゆったりした時間とか静寂とか孤独とか。家族とか。
茜音ちゃんがそうであったように、スタート地点がゼロからマイナスだと、見栄や虚勢をはる余裕なんて無いし空元気を取り繕うパワーもないから、砂漠に水撒くみたいにマダムたちの好意をごくごくと飲み干せる。作った料理を美味しそうにがつがつ食べてくれる姿を見ながら、自分も満たされるように、差し出したものを素直に受け取ってくれると嬉しいよね。

以前、わたしの祖母が言ってました。「人の好意は素直に受け取るもんやで」って。
たとえ相手が自分のことをどう思っていようと、自分が相手をどう思っていても、家族なんやから差し出す好意に駆け引きなんてないし、気持ちよく受け取っておけばいい。

善人ばかりが集う家に、見栄や虚勢は必要なくてただ感謝して受け取ればいい。茜音ちゃんのかなりや荘との出逢いを読んでいて、ふっとそんな祖母の言葉を思い出しました。

自分が誰かに助けられたら、今度は自分が誰かを助けようとする。そうしてかなりや荘は優しいシェルターになったんでしょう。

茜音ちゃんとましろさん母娘は本当に親子なんですけどどこか遠慮がちで、
カーレンちゃんと楡崎さんも重大な責任の下に、
ユリカちゃんと茜音ちゃんもある意味姉妹のようなもので、
マダムと銀次さんもきっと深い記憶を共有していて、
昔に茜音ちゃんを守ってくれたおばあちゃんと子供の茜音ちゃんもたぶん仮初めの家族のようだったし、
そしてこれから、茜音ちゃんと神宮寺さんと幽霊の玲司くんも漫画家と編集者とアドバイザーとして絆を深めていくでしょう。
助けて助けられて。
小さな絆が集まって、かなりや荘という大きな家族を編成する。

今はまだここにいない、須賀ましろさんは、いつかこのかなりや荘に昔のように颯爽と茜音ちゃんを迎えに来た時に、いったい何を感じるのかな。
あの時は、幸せじゃないとすぐに分かった茜音ちゃんの痛々しい手が、きっとかなりや荘では幸せに輝いてると思うから、すぐさま抱き上げて連れ帰ることも出来ないよね。でも、茜音ちゃんが望んでるのはまさにそれで。
お互いを思いやるあまりに手を離しそうな……。
茜音ちゃんにとっては、ふたつの家族。どちらも大切。
風早の街と風は、ただ見守るだけ。

クリスマスイブから、春の花が咲き始めるまでの、冷たい風と雪が吹き付ける中で出会った人たち。幽霊さんたちも含めて。
今度は春から夏ですよね。一番キラキラとパワーに満ちた季節。
秋の収穫の時期のために、やがてまた来る寒い夜に備えて、そして次の春を楽しみに、茜音ちゃんをはじめかなりや荘の面々は、きっともっと賑やかで楽しい夏を迎えるのではないかなと想像してます。

廃園が、いつか手入れされて住人とともに息づく庭園になるように。そこで鳥たちが巣を作れるように。その巣から飛び立てる風が吹くように。
そんな美しくて幸せな未来が待っているといいな☆

(2015.3.21 読了)
スポンサーサイト
Comment (-)

ページの最初に戻る