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『山魔の如き嗤うもの』 三津田信三 著

2008/09/04(木) 08:36:29 三津田信三 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 昨年のミステリ史に残るだろうとまで言わしめた傑作、『首無の如き祟るもの』の続編というか、刀城言耶シリーズ四作目。
 特に本格ミステリ好きからは、四月末に発表されてすぐに「今年のベスト!」だと賞賛するひと続出です。
 さて、じゃあ私はどう読んだか…(笑)
 シリーズを通して結構ボリュームのある作品ですが、この書き下ろしをしっかり読んだかたのみ、お進みくださいませ。




うん、本格ミステリとして、めっちゃめちゃ良く出来てます。すごいです。

でも、前作ほど褒めちぎるだけのポイントがない……。

ちょっと期待が大きすぎた…(がくり)

『首無』の時は、そのあまりの素晴らしさに、有栖川先生の『女王国の城』とコレのどっちかが本格ミステリ大賞を取るだろう、と確信させるだけの勢いというのか凄まじさがあったんですが。

今回のこの『山魔』は……どうにもクセが目に付いた。
不気味な童歌、忌み山の謎、得体の知れない狂ったような嗤い声、それから一家消失と見立て連続殺人……。
そして最後の二重三重の大どんでん返し。
三津田さんのホラーとミステリの融合、というコンセプトが悪いわけじゃない、それどころかよくぞここまで書ききった!とまで思います。

ただ、もう少し小説として成熟させるなら、章の終わりの部分と次の章の繋ぎ目に、探偵と警察が新たな謎に直面するとか次の惨劇が起こってしまったとか、そういう読者の引っ張りかたは稚拙じゃないかと、生意気なことを感じました。

謎が謎を呼ぶミステリでは、リーダビリティというものは、そんな導きかたをせずとも読者の側がどうしてもページを繰る手を止められない!といった見せかた読ませかたの方が、もっとスマートです。洗練と言ってもいいかな。

前作の『首無』の時も、評論家や同業の先生方の意見の多くに、小説としては未熟、未完成だという指摘がありましたが、良くも悪くもそのまま変わっていない。むしろそれを個性として、ただ謎の提示と解答にのみ執着したような…。

と言うことで、ミステリとして伏線の回収の仕方は、お見事の一言。

冒頭のある人物の怪異な体験を纏めた手記、そのあまりの不気味さに、果たしてこれに解答なんてあるのか、謎は謎として宙ぶらりんになってもおかしくないと思うほどですが、それをひとつひとつ解き明かしていく様は、唸るしかありません。
特に山女郎の正体は思いもしなかったところからのカウンターをくらったようで、それはとてつもない哀しみに満ちていて、怖いとかあり得ないと思うこと自体、人間の罪深さに打たれます。

それとは別に、やっぱり大きな謎のひとつは一家消失。
いやー、この謎について、こんな考えかたもあるんだーと納得。
その意味でも、連続殺人としても、この作品に遊びの人物がほとんどいない。
探偵役の刀城言耶と警察関係者を除けば、1人くらいでしょうか、キーパーソンじゃないのって。

忽然と消えた一家は失踪したのか拉致されたのか、それとも一家そろって殺されたのか。
この伏線の張りかたが素晴らしい。まさかこうくるか!と。
で、この一家消失があったからこそ、後の大惨劇に直結していたとは、うーん、すごい。

また、ある一家が皆殺しの憂き目に遭うというその隙間に挟まれた格好の、ある人物の殺人事件、じつはこれがミソだったんですね。
何故この人物が殺されなければならなかったのか、その一点を突き詰めていけば、刀城言耶さんよりも早くに、真犯人に辿り着いたってことですよ。

ムダに殺された人はいない、みんな何がしかの理由があって生命を奪われ、遺体を損壊された、そのフェアな謎には拍手です。

ただ、真犯人の動機、これはどうしたものか……。

確かに(もし未読のかたがこれを読んではった場合ネタバレ。多分これで犯人が分かるから)辱められ蔑まれ信じてもらえなかった理不尽さに、復讐したくなるのは分からないでもないけど、それがここまで狂気に変わるものなのか。
童歌の見立て殺人、その常軌を逸した行動と、アリバイ作りやらフェイクやら、それが綺麗に繋がらない、そんな不満が残りました。

多分、前作の『首無』の目の覚めるようなスルスルとした謎の解けかたは、三津田さんにとっては一発芸に近いものがあるのかもしれない。
あのカタルシスに匹敵するだけのものは、今回やたらと細かくなってしまった謎の数多さでカバーして、また死体の数も増やすことでシリーズとしてのバランスをとったのかなあ。

読んで損はないです。特に横溝作品の好きなかたなら、どっぷり世界に浸れるはず。
昨年の傑作があまりにも記憶に鮮明なので、どうしても比べてしまうしあれ以上を期待してしまうから肩透かしをくったような気がする。
ミステリ読みの悩みのひとつが、免疫の付き方というか、前作以上を望む贅沢というか。

あー、その意味からすると、有栖川先生があの大傑作『双頭の悪魔』から15年以上もの時間をあけられたことは、正解だったのかもしれません。
いつ出るかいつ出るかと期待され続け、そのうち、ほんまに出るのかと疑われ、大丈夫ですかと心配されるまで引っ張った上で『女王国』を書かれたのは、ファンにとってはとてもありがたいことだったのかも、と。

最後に、一個だけどうしても納得できない点を。

刀城言耶さんのルーツ、元華族刀城家の成り立ちと父・刀城牙升(とうじょうがじょう/=名探偵・冬城牙城)との確執、息子の言耶から父親への屈託といった心理描写は、果たして必要だったのか?
小説としての贅肉を極限まで削ぎ落として組み立てられているこの作品の、あまりそぐわない部分としてどうしても引っかかってしまう。
「先生」と呼ばれることに拒否反応を示す言耶の、それが父親の七光りから来ていることを、過去に怪異現象に遭遇し解決に導いたというその実績だけでは補えなかったとも思えない。
現に作家であり、過去の実績を聞けば、事件の渦中にいて災厄に見舞われている人や捜査に行き詰った警察官から「先生」と呼ばれてもちっともおかしくないもん。
刀城言耶という探偵の魅力・才能や曖昧なポジションというものの神秘性を剥ぎ取ってしまったもったいなさ。
この作品の一番の不満は、その一点からきているのかもしれません。

まあ、今年の年末のベストには上位にランクインすることだけは間違いないです。

これだけの水準のミステリを、毎年書いてしまう三津田さんに脱帽。

(2008.08.26)
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