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『壁と孔雀』 小路幸也 著

2014/09/12(金) 00:11:31 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
壁と孔雀 (ハヤカワ・ミステリワールド)壁と孔雀 (ハヤカワ・ミステリワールド)
(2014/08/22)
小路 幸也

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 連載追いかけたいのをぐっと我慢して単行本化を待ってました。なので、タイトルがまず不思議だった。「壁」と「孔雀」ってどゆこと?
 うん、読んでわかりました、壁と孔雀だった(笑)
 そして、北海道が舞台であればこその物語(地名は架空ですが)。
 小路作品の中ではかなりミステリ度高めだと思います。なるべくネタばらしはしないようにしますが、あんまり自信ないのでここから先は自己責任でお願いします。




この本の予約が始まったころ、ハヤカワ・オンラインの近刊一覧にタイトルと簡単なあらすじが紹介されてそれがまたかなり気合いの入った惹句で。
「クイーン的興趣溢れる本格ミステリ」って。
これを見た小路さん、弱ったなあって感じのツイートされてましたよね。

で、発売直前のサイトのdiaryで、この作品の紹介をされてたんです。
「来津平」という架空の地名について。
これは、小路さんのミステリのベースにあるという、EQの〈ライツヴィルもの〉、そのライツヴィルという地名をもじったものだそうです。
そんな前情報のせいか、英朗さんが降り立った「来津平」や「篠太村」の風景が、悩めるエラリィ・クイーンが愛したライツヴィルと重なりました。

だからこそ、なんだと思いますが、ストーリーまでがやっぱり「後期クイーン問題」に感じられて。
(ミステリ好きにはある意味お腹いっぱいの「後期クイーン問題」、この概念?をご存知であれば未読でも多少見当がついてしまうかもしれませんね。ただ、ご存知ないかたには、まずこの『壁と孔雀』を読んでから、「後期クイーン問題とは何ぞや?」とググってみてください)

なので、小路さんは弱っていらっしゃいましたけど、ハヤカワの担当編集者さんが「クイーン的興趣溢れる本格ミステリ」と煽ったのも分かる気がしました。

とにかく、疑問だらけ。
謎というよりは疑問。英朗さんにとって。SPの仲間や警察官にとって。
篠太の誰も、嘘は言ってない。ただ、全部を話しているわけでもない。
隠しているものを暴こうとするのは確かに暴かれる側にとってはいい気持ちはしないでしょうが、そんな悠長なことも言っていられなくなってくる、英朗さんに向けられる害意。
こういうところはハードボイルドタッチなんですが、英朗さんが思うように、確かに「ぬるい」ので、主人公が命の危険に見舞われるような展開は心配しませんでした。
それに。
小路さんの小説に共通することですが、主人公とかかわりのあるキャラクタがみんな、品が良くて美しいんです。
元々、事件とも事故ともはっきりしないアクシデントばかりなので、犯人というものがいるのかどうかもぼやけてくる感じ。
このひとを疑いたくないというよりは、このひとを疑うんなら村どころか来津平町のひと全員を疑わないといけないねえ、と思うくらい。
ここで、後期クイーン問題ですよ。
英朗さんが休暇とリハビリを兼ねて亡き母・亜紀さんのお墓参りでも行ってこようか、というところから始まってる。なのに、それまで北海道開拓からの長い間を変わらずに存在し続けた篠太村が大きくうねる。
横溝正史がおどろおどろしく描いた因習に縛られた田舎とは住人の気性も村の風通しも違いますけど、でも閉じた土地なりの秘密が暴かれていくのは似てます。
ああそうか、ハヤカワの担当さん、横溝ワールド、という惹句ももちろん浮かんだんじゃないでしょうか、今これ書いてて思った。
ただ、横溝世界ほど暗くおどろおどろしく血生臭くもないから、クイーンになったのかな?もちろんライツヴィルへのオマージュとしてもおかしくないですし。

そういう視線でもう一度登場人物を見ると、村を含む町の住人の中で英朗さんにとって本当に信頼できる人というのは、年配のおまわりさんと、あと一人しかいなかったんじゃ?
この物語はミッシングリンクなんです。
表には出てこない繋がり。隠したいと思って、最後の最後まで隠される繋がり。
読者は英朗さんの思考を追いかけるので、英朗さんに隠されているものは当然わたしも知りません。
ミステリ的には、どんでん返しというかサプライズが用意されているので、「おおっ!」とびっくりするんですけど。
もしこれが、捜査機関または名探偵の推理によって「真実を白日の下に晒す」展開であったなら、犯人を捜す(もしくは筋書き書いた人探し)というスタンダードなフーダニットであったなら、ちょっとアンフェアかもしれないんですが、うまくぼやかしてあるんです。
英朗さん曰く、「自分はSPだ(要約)」。矛盾を飲み込んで壁に徹する人の物語。

それもこれも、誰もが心にかけている、未来くんのために。小路さんらしいなあって思いました。

表向きの真相、事態の収拾のために暴かれたものによって未来くんは解き放たれ、
二重底になってる真相(らしきもの)はすべて英朗さんの推論の範疇にあることにとどめておいて、世界は純度100%では済まないことを知る。
大量の水の中に、墨汁が一滴。
たった一滴では見た目にはほぼ変わらない透明な水。そうと知ってる者にだけ見える、墨汁の一滴。
完全な悪意からじゃない。
任務中に撃たれた英朗さんという矢と、
完全黙秘で身元すら分からない男という矢と、
母・亜紀さんの死という矢と、
そもそも英朗さんの両親の離婚という矢、
その数々の矢をつがえ、的確に打ちこんだフィクサーがいたのかもしれない、という話。
あの出来事にもこの出来事にも、いろんな見方ができること。

そんな伏線の回収も、英朗さんの推論の中に。
悪意がないならそれでいい、という。
英朗さんが「推論ではある」と言いながら、これは牽制ですね、自分は真実を突き止めたぞ、という、この牽制が、相手にとって大きな貸しになるんですよ。
彼にそんな気はなくても、(いずれ答えにたどり着くだろうと予測した上で)貸しをつくったと知った方は、これ以上英朗さんを利用できない。(もうそんな必要はないにしても)。元通りの人間関係に戻れるのかなあって、思ってしまいます。

ただの一般人ではなく、SPとして張り巡らせた雰囲気が英朗さんを形作ってるので、そういうものを消して休暇というのは無理なんじゃ……と思ってたら、それまでもが組み込まれていたのを知ったときにはなんだかもう、普通に休暇もとれない英朗さんが気の毒になってしまって(苦笑)

目の前の人を動物にたとえ、その印象が一度として外れないという英朗さんも、すごい能力の持ち主です。
プロローグにはなかった、エピローグの動物の生態が、シミのように。
このシミが、いつか英朗さんを侵食してしまわないように、と祈るような気持ちになりました。
孔雀にちょっと詳しくなりましたw
宴会の席で披露する豆知識にもよろしいかと思います(笑)

女性キャラ、特に森藤さん、オトコマエです。
英朗さんの同期、相川さんのゆるーい感じの中にある抜け目のなさと鋭さがツボでした。
戸井さんでスピンオフお願いします小路さん☆

長編ですが、読みやすくて楽しかった!
時間を忘れて一気読みでした♪
小路さんの、ミステリ小説(本格かどうかは小路さんにも基準があるでしょうから付けません)、もっと読みたいですねえ。


(2014.8.23 読了)
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