こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

オースティン・フリーマン > 『証拠は眠る』オースティン・フリーマン 著(再読)

『証拠は眠る』オースティン・フリーマン 著(再読)

2014/07/19(土) 19:43:02 オースティン・フリーマン THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
証拠は眠る (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)証拠は眠る (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
(2006/03)
オースティン フリーマン、森 英俊 他

商品詳細を見る


 再読なんです。本当に。
 でも、犯人はおろかストーリーのほとんどをおぼえてなかった……!まるで初読……!
 ところが、フリーマンの作品のなかでは、『赤い拇指紋』よりもこの『証拠は眠る』の方が好きなこと、決定的な手がかりがある品から見つかること“だけは”覚えてたんです。わたしの記憶力っていったいどうなってるんだ。
 そんなわけでもう初読っぽくドキドキしながら読みました。はー面白かった!
 わたしはやっぱりこの作品が大好きです。
 (カンのいいかたは真相に気がつかれるかもしれない程度に、ぼんやりネタばれってるような部分があります。未読のかたはご注意)




改めて読むと、このソーンダイク博士って、「科学者探偵」の先駆けで学問と研究の虫だそうでまあその方面の圧倒的一番人気はシャーロック・ホームズになるわけですが、ミステリ好きだからってみんながみんなシャーロキアンかというとそうでもないしホームズを読んだことがない人でも国内ミステリが好きならじゅうぶんにミステリ好きといえますよね。ええとつまり何が言いたいかというと。

わたしはホームズよりも断然、この常識人で思いやりに溢れたソーンダイク博士の方が好きだったことです!

実際、ホームズみたいなのが身近に居たら、人間嫌いになると思うよ。ホームズ本人を含めてね。

このソーンダイク博士はさっきも書いたようにちゃんと社会常識を持ち合わせてるし、友人に対する思いやりも深いし、困ってる人が居たら手助けしてあげられる度量の大きさもあります。自分以外の人間をバカ呼ばわりしないし(笑)
むしろ、この『証拠は眠る』では、真犯人のことを「邪悪な怪物」と呼んで忌み嫌う。人間として。特異な人物だから研究対象にしてみたいとか言わない。
こういうところ、すごく安心します。

解説によると作者自身も気に入った長編だそうで、フリーマン作品を全部読んではいないにしてもミステリ読みの常識として『赤い拇指紋』くらいは読んだわたしも、『赤い』よりはこの『証拠は』の方が読みやすかったし科学者探偵の本領発揮で分かりやすいし、どんでん返しというか事件の真相をすべて見通したときの意外性と悲劇性は重厚で濃密だと思います。

とにかく、発端の死が他殺なのは間違いないのに手がかりの何もかもが曖昧で、その手がかりの糸を追うと必ずその先は途中で千切れてる。
これだけの手がかりを並べながら、そのどれにも決定的なつながりを用意せずに霧のように漂わせて、あるものはレッドヘリングにしたり別のアレは本筋の伏線にしたりと、何重もの厚みと凄みを感じました。普通なら、隠された真のつながりがあったり実はやっぱり使い捨てだったりするんじゃないかな。
法廷で取り上げる証拠として、またロジックとして、その曖昧な手がかりをどれも捨てることなく、また、ソーンダイク博士が科学的に調べ終わるまでは犯人に結びつけるような描写もなく、それでいて解明シーンではぜんぶ回収してあるんだからもう愉しい以外の何があるっていうの♪
ミステリ作家志望者でなくて本当によかった。こんな作品を書きたいと思っても、相当に時間をかけないとこうも自然に溶け込ませるのは至難の業でしょう。

そして本当の悲劇は、冒頭の人物の死ではなかった、というのが。
ルパート・メイフィールド氏が実は一番悲劇の人だった、というのが。
その彼を、ソーンダイク博士がこれからも支えになってくれるだろう、というたったひとつの救いが。
本格ミステリという「謎解きに特化したジャンル」でありながら、じゅうぶんに物語性としても読ませてくれるんですよね。

このメイフィールドさんとソーンダイク博士の絆ががっちりと結ばれるまでに、こんないきさつがあったのか、と。
友人で科学者で法医学者としても名高いソーンダイクさんに事件の捜査を依頼した自分を褒めたり後悔したり、何度も信じて何度も疑って腹を立てて、それでも博士の言葉を聞く耳を持ってるメイフィールドさんもやっぱり弁護士として清廉で、読者として応援したくなるんですよ。そして、これからのふたりの友情が長く続きますように、と願わずにはいられない。

犯人、本当におぼえてなかったです。
終局になって、「えっ、そうだったの?!」ってびっくりしつつも、ようよう何年も前の初読時の感想を思い出したりしてね。そうか、この犯人を追い詰められる決定的な手がかりは、ずーっとそこに在ったし犯人にとっても手放せない証拠品だったわけですよ。
それを、序盤にちゃんと書いてあって、なおかつ日記にもしっかり出てくる。それなのに博士と犯人にしか認識させないままでストーリーを引っ張ってあるので。
これがホームズだったら、そうと見抜いた時点で、警察も容疑者もメイフィールドさんも含めて全員バカ扱いですよきっと。

登場人物の好意の矢の向く方向も、ノスタルジーもぜんぶひっくるめて、手がかりです。
どのページも読み飛ばすことができません。
探偵と犯人の格闘シーンなんてありません。それどころか、この名探偵、科学者探偵ソーンダイク博士は、メイフィールドさん以外の容疑者とは一度とも顔を合わせていません。それでも、容疑者のそれぞれの個性をちゃんと把握して読み間違えない、洞察力が凄いです。
狂ってる人も、常識人も、殺された人も、みんな可哀想です。もちろん犯人も、ある意味ではかわいそうですが、同情できませんね……。

再読なのに初読の気持ちで読めて、新鮮に驚いて愉しみました。
本格ミステリは再読してこそ面白い、といわれますが、とにかく何度読んでも面白いならこれはやっぱり傑作中の傑作なのだと思うのです。

(2014.4.6 読了)
スポンサーサイト
Comment (-)

ページの最初に戻る