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『田村はまだか』 朝倉かすみ 著

2008/09/04(木) 08:30:03 朝倉かすみ THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 お恥ずかしながら初読の作家さん。好んで女性作家さんの作品に手が伸びない所為でもありますが…。
 ミステリ読みさんというより広く本読みさんの書評でダントツに評価の高いこの作品、書店でも平積みされているので、目に止まったかたも多いのでは? 
 ミステリ読みが読んで、果たしてどれくらい作者の意図が掴み取れるのか疑問ではありましたが。面白い、というより、とてもとても印象的な読後感でした。
 あ、ミステリじゃないですよ。



これ、表題作を含む、全く独立した短編集かと思ったんですよ。
そしたらひとつの流れの中にあって、そこに集うメンバーが代わる代わる軸になってて口には出せない大人の事情を描きながら、結局は「田村はまだか」と、田村を待ち続けているという構図。
そして、待ち続けてやっと連絡か来たと思ったら……その田村を失うかもしれないことを考えまいとするんですけど、だからと言ってこのメンバーがしょっちゅう田村と連絡を取り合ってると言うほど緊密という訳でもなく。

ただ、あの田村に会いたい。
今の自分が、昔から変わらない田村に会うことで、純化されていくような気がする。

そう、田村は綺麗なんです。シンプルなんです。
そして、小学生のその時代からずっと変わらない田村と六年生にして運命の片割れと出会った中村理香の夫婦。この2人はみんなの憧れになった。

札幌・ススキノ。小学生の時のクラス会、その三次会にまで流れたメンバーは5人。
田村を待つのは、スナック<チャオ!>。
そのスナックのマスター花輪春彦。
第一話の【田村はまだか】は、この5人を心中でそっと渾名をつけて呼んだマスターの目で、5人のざっくりした紹介と田村という人物、思い出、中村理香との関係、そういったことが描写されます。

で、第二話目から、待ってるメンバーのウチの1人にスポットを当て、マスターが勝手につけた渾名ではないちゃんとした名前を明かして、田村を待つ間にそれぞれの中に渦巻いたよしなしごとを披露することで、5人を順番に肉付けして立体感を持たせてあります。
“腕白小僧のような”
“コルレオーネの矮小版”
“いいちこばかり飲むオ/ン/ナ”(←スパムよけですすいません)
“エビスばかり飲むオ/ン/ナ”
そして店の常連客である永田一太。

彼らには彼らの、それぞれの日常があり人格があり、過去がある。
メンバーの皆は、それをどこまで知っているのか、具体的には書いてませんが、みんな何かを感じ取ってはいる。
そして、その回想や今の職場や家庭における屈託を感じると同時に、「田村はまだか」と口にすることで、今このいっときだけは小学生のキラキラした自分に戻ろうとする。
クラス会という特有の空気の中で、どうしても背負ってしまう現在を見せつけられる大人のやるせなさ。

ミステリのようにかちっかちっと嵌まっていく伏線ではないですが、第二話目の【パンダ全速力】に出てくる池内氏の上司、二瓶サンの存在が、素晴らしいですね。
ちゃんと書いてあるので、あっ!この人かー!と驚き、そう言われればとすぐに納得する。
で、最終話の【話は明日にしてくれないか】の最後のシーンで、そのことには一言も触れられていないけれど、今までの話を読んできた読者にだけ、素敵なサプライズというかプレゼントを用意されていることに、ものすごく嬉しくなってくる。
登場人物にさえ明かされない(勘働きの良い人なら、気が付いたかもしれない。このメンバーにさえヒミツという訳じゃなく、メンバーの口から語られた中にちゃんと解答が含まれているから)、読者だけに向けられた贈り物。
これをハッピーエンドといわずして何と言おうww

そしてやはり、田村は素敵な人だった!
極貧の小学生時代にあってもその輝きは曇ることなく、そのまま成長し運命の人と結婚し、どうしようもない母親でも自分の家庭を築く息子は可愛いと思わせるだけの魅力。イジメられっこではなく、ただ弧高の人。生きる為に必要なものを最小限だけ知っていることのシンプルな人生。余計な飾りや見栄など無い美しさ。それだけに忘れられない強烈な印象を残す、田村。田村久志。
彼の妻の中村理香も、小学生にして目に映る世界と見えない世界の境界線に立つような鋭敏すぎる眼と感性を持つ印象的な女性で、世界を引き裂いてみせる「ばりばりばり」にはトリハダがたちました。

たった一人の人と出会うことで、世界に色がついた、という経験、ありませんか?

また。
会ったこともないその人を、奇妙な仲間意識を芽生えさせて一緒に待つまでになったスナックのマスター、花輪春彦氏の、客がぽろりと零した心に残った言葉を書きつける様が、なんとも可愛くて、でも草臥れかけた中年で。誠実に家庭を維持していたはずの会社員時代の、たった一度の過ちで全てを失い、残ったのは元妻に嫌がられた耳を触る癖だけ。

いろんなパターンの人生が描写されているので、全く同じではなくても、似たような境遇だったり性格だったり。

とにかく、中年ど真ん中に居る人には多いに共感できるだろう、素敵な作品でした。

あるサイトさんでは、来年の本屋大賞にコレ!とまで言わしめた、良い作品です。
性的嗜好とか肉体が潰れていく描写を逃げることなく、ドライとじっとりした質感のちょうど真ん中の位置で書いてあることもポイント高し!

若い人には感情移入は難しいでしょうが、人生の折り返し地点に差し掛かった人にはお勧めの1冊です。

(2008.08.02)
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