こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

スポンサー広告 > 『うたうひと』 小路幸也 著
小路幸也 > 『うたうひと』 小路幸也 著

スポンサーサイト

--/--/--(--) --:--:-- スポンサー広告 EDIT
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Comment (-)

『うたうひと』 小路幸也 著

2008/09/04(木) 08:28:39 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 今年に入って4冊目の新刊です。すごいです。ファンは嬉しいけど、小路さんのお身体は大丈夫でしょうか。
 初めての短編集ということですが、全くの独立したものではなくて、うっすら繋がっています。
 若い頃にバンドを組んで夢中になっていた人、今も頑張って音楽をやっている人には堪らない1冊だと思います。




この1冊に、7つの物語が入っています。
【クラプトンの涙】
【左側のボーカリスト】
【唇に愛を】
【バラードを】
【笑うライオン】
【その夜に歌う】
【明日を笑え】
この、順番が秀逸です!最初と最後に、小路さんのリスペクトしている人(達)がモデルになったお話があって、その間には小路さんの今までの経験が詰まった眩いばかりの若さに満ちたお話が。そして、登場人物の何人かがスライドするように後の物語にも出てきたり前の物語を戻ってみたり。そういう連作短編集になっています。

雑誌掲載時に我慢してたのにうっかり読んじゃった【左側のボーカリスト】、ものすごく印象的だったんですが、こうして全体を通して読むとまた違った雰囲気になってますね。
私、この【左側の~】を読んでる間中ずっと、スピッツのことが頭に浮かんでました。
スピッツは今年結成20周年で、今までの道のりを纏めた『旅の途中』も、ファンとして楽しんで読みましたけど、その中にも出てくるんですよ。バンドとしての音楽性、売れる曲と売れない曲、やりたいこととやりたくないこと、奇跡の歌声が楽曲にぴったり嵌まる瞬間……。そして何より、スピッツのメンバーがみんな、草野さんの才能を愛しているということ。
【左側の~】は男性2人のデュオなので、B'zやチャゲアスあたりの方があってるのでしょうが、私にとって一番だったのは“歌声”。天使のような、と形容されるショウさんの歌声を最大限に生かせるのはケントさんの楽曲。
スピッツの草野さんのあの歌声も、奇跡だと思うんですよ。ガラスのようなキラキラした声ならオフコースの小田さんで決まりですが、草野さんの歌声は違う。透き通ってるのに俗っぽい。それが人間臭くて素晴らしい。聖俗合わせ持つ歌声の男性ボーカリストなんて、草野さんしかいないと思う。
この物語は、そういうボーカリストを天使と見るか人間と見るかで世界が変わる、そういうお話だと感じました。

また、【バラードを】では、これまた現実を引っ張ってきて申し訳ないんですが、宇多田ヒッキーがぽんっ!と出てきて重なりました。
この物語の女性は“世界の歌姫”“dancing pianist”というポジションにいながらも、自分の中のものを抽出する才能に優れていた為に孤独だったという、フィクションならではのキャラクターですけれど、似たような才能をヒッキーも持っていると思うんです。結婚してた時に発表したアルバムと、離婚という結論を出した彼女が心機一転発表したアルバムとの、あまりのトーンの違いに驚いたんです私。個人的には結婚していた間のアルバム『ULTRA BLUE』の方が好きなんですけど、ヒッキーのシンガーとしての表現力は離婚後の方がいいと言う評判ですよね。関係ない人間がこんなことを推測するのも筋違いですが、離婚の原因は、ご主人だった彼が静かに身を引いたのは、そういう考えもあってのことじゃないかと。だとしたら、この物語のあまりに哀しい出来事は、強ち間違ってもいないのかなと思って。

この短編集は、そんな、愛、に貫かれた1冊です。愛情、ではなく。
一般人には考えもつかない考えられない行動にでてしまった哀しすぎる愛、ただ歌って欲しい為だけに待ち続ける愛、真実を隠す愛、そして親から子に向けた分かりにくい愛と子どもが親に見せる分かりやすい愛。
憎しみさえ含んだ、強い強い愛です。
でも、どんなに絶望の中にいても、表現することをやめられない祈りのような一筋の希望。

小路さんが若い頃にバンドを組んでて音楽に夢中になっていたという当時、多分、音楽というものはもっと希望に満ちたものだったと感じます。今日は辛くても明日は違う何かが待ってると思わせてくれるような音楽が。そしてそういうものこそ、今でもスタンダードとして歌い継がれるだけのチカラを持ってる。
今はどちらかというと、アーティスト自身の自己完結型でさっぱり分からない曲も多い。流行り廃りが早すぎて、めまぐるし過ぎて目がまわる。
そういう時代の今を、小路さんは、少しだけ憂えていて、でもやっぱり変わらない音楽という表現を素敵だと信じている、そんな気がしました。

そして何と言っても、最初の【クラプトンの涙】と最後の【明日を笑え】。
現在の音楽シーンを、お茶の間をこれほど席巻したアーティストをモデルに書くことは、小路さんにとっての必然だったんでしょうね。この人達がいなかったら、今の芸能界も、そして今の小路さんも無かったと思うから。
このモデルになった人達の計り知れない影響力を知る一人として、私もとても感慨深いものがありました。

【唇に愛を】のコーイチさん、めっちゃ魅力的なんやけどやっぱり一般社会不適格者ってことなんかなあ、とか、【笑うライオン】のお母さんの気持ちが痛いほど分かるってことは私も歳取ったんやなあ、とか、【その夜に歌う】に出てくるジョーさんはじめ店の常連さんって『東京バンドワゴン』の堀田家みたい♪とか。
そりゃもういろいろありますけれど。

一番肝心なのは、登場するミュージシャンや、またそのミュージシャンに縁がある人関わりのあった人、みんなが誰1人として過去も現在も後悔していないということ。

今現在、音楽に夢中になってる若い人に是非読んで欲しい。
そして自分を支えてくれる周りの大人達が、その少しだけ豊かな知恵と人生経験で、自分の人生の先で待っててくれることを忘れないで頑張って欲しい。
売れようが売れまいが納得出来るまで頑張れたなら、その先の人生も決して悪くない。ただ後悔しないように、やりたいことを自分のできる範囲でやり遂げて欲しい。
そんな思いの詰まった1冊です。

今までの小路さんの作品の中でも、一番メッセージ色の強い本ではないかなと思いました。

(2008.07.26)
スポンサーサイト
Comment (-)

ページの最初に戻る

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。