こんな本読みました。

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『菩提樹荘の殺人』 有栖川有栖 著

2014/01/04(土) 20:58:24 有栖川有栖 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
菩提樹荘の殺人菩提樹荘の殺人
(2013/08/26)
有栖川 有栖

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 火村シリーズ、今までたくさん出てますが、この新刊はシリーズの分岐点になるかもしれない、と思ったり、原点に戻った感じがするね、とも思ったりする、ファンにとっては多面的な短編集ではないかな、と。
 で、わたしの超個人的な理由で、これはかなり特別な一冊となりました。決定。読んでてもうちょっとどうしようかと思ってうろたえた(苦笑)
 火村シリーズらしい一冊であり、江神さんを中心とした学生シリーズでこんな物語があったら違和感を感じるに違いないと思います。
 有栖川先生のシリーズ三つの書き分け方が、まるできっちりと演じ分けしている俳優さんのようです。




〈アポロンのナイフ〉
〈雛人形を笑え〉
〈探偵 青の時代〉
〈菩提樹荘の殺人〉
の四編。

文芸誌に掲載された三編は既読。電子書籍端末を持ってないので、電書配信のみだった「つんどく!」に収録?されていた〈雛人形〉だけ未読でした。

つんどく読んでなくてよかったのかもったいなかったのか。

最初に書いてしまいますが、わたしがもうびっくりして本を取り落としそうになったのが、この〈雛人形〉でした。
それと、雑誌掲載時にも同じように心臓が口から出るかと思ったのが、〈菩提樹荘〉。

リアルでわたしをご存知の追っかけ仲間さんたちなら、すぐ分かるよね(苦笑)あーびっくりしたっ!

以前、『天空の眼』を文芸誌買って初めて読んだときも、ちょっとドキッとしたんですけどね(とあるキャラの○○が、わたしのアレに近かったから……)
うーん、詳細はFacebookに書くかな。あっちは友達承認してる人しか読めない設定にしてるから、この話書いても大丈夫だと思うし。FBでならすぐに分かるのよね(苦笑)

さてと、個人的な話はこれくらいにしよう。

いやそれにしても、文芸誌で先に読んだファンが萌え転がって大騒ぎだった、火村先生とアリスさんの若き時代。〈青の時代〉と〈菩提樹荘〉。それぞれ一編だけでも破壊力抜群なんですがもうこれを一冊の単行本にまとめてしまうなんてファンを殺す気ですか有栖川先生。

『46番目』と『ダリ繭』、『朱色』、『スイス時計』、二人の昔話に踏み込んで書かれていたのはこの四つの作品かな。他の作品にもところどころに大学時代に出会った二人の付き合いの長さからくるそれぞれの洞察とかは出てきましたけど。
このリストにこの新刊が加わったわけですが、破壊力としては『46番目』に匹敵するよね。

火村先生とアリスさんのコンビは、国内のミステリ界において磐石の安定感を誇りますが。
今回のこの新刊で、ますますそれが鮮明になった気がします。
火村先生も、アリスさんも、話していないお互いの過去を自分のエゴで蹂躙しないんですよね。距離感が抜群で。
自然に話したくなったら話す、それまで待つともなしに待ってる。でも、話す話さないの自由を尊重する。
触れられたくないところをちゃんと見逃してくれる、かける言葉に過剰な装飾がなくてシンプルでも心はちゃんとこもってる、こんな友達がいたらそりゃ居心地いいよ。14年の付き合いがそうさせたというのが半分ですが、もともとのふたりの性質がそんなふうに距離を測る感度が高くて繊細なんですもん。漫才だってできますよそりゃね(笑)
萌え萌え要素はともかく、本当にこんな友達がいたらいいなあ、と率直に思います。

四編の作品はどれも、火村先生の推理と、アリスさんの相手の内面を推し量る能力と、被害者と加害者の境界線の曖昧さというかあまりにも普通の延長線上にある悲劇とが組み合わさっていて、うーん、
学生編ほどガチガチのロジックでもなく、物理トリックでもないし、叙述とかミスリードで何かをひた隠しにされているわけでもなく、サスペンスやクライムノベルのような心理的ストレスやドキドキ感に満ち溢れてるのでもない、でもちゃんと伏線があって手がかりは提示されてるしフェアに回収されてるから本格ミステリだとわたしは思うし。
なんていうか、火村&アリスにしか醸し出せない味わいというか、火村シリーズ(実作者の有栖川先生)マジックとでもいうか。

さっきも書いた、普通の延長線上に犯罪が起きたのなら、普通の、日常で平穏な毎日の内面をトレースするアリスさんと、
衝動的にしろ計画的にしろ結局「向こう側」に飛んでしまった犯人の心と急所を突く火村先生のあいだには、
確かに一線があるんですよね、でもそれはかなり輪郭がぼやけたもの。
もしかしたら普通の人であるアリスさんがその線を越えてしまう可能性だってあるわけで、それが有栖川作品における犯罪の性質かもしれなくて。
火村先生はそれを知っていて、アリスさんがいざというとき火村先生の腕を掴もうと覚悟しているのと同く、火村先生ももしそのときはアリスさんを掴んで助けたいと決意しているのかもしれないですよね。

とにかく、いろんなタイプのミステリの中で、この火村シリーズというのは、独特の存在感があるんです。
人間臭い。
リアリティというのではなくて、火村先生やアリスさんや刑事さんたちが紙の中の世界に実際に生きているかのように(でも火村先生もアリスさんも自分達はフィクションの世界の住人だと認識していそうな気がする)、血肉と感情と視線に温度とやわらかさがあるんです。フィクションだからって突き放さないし、冷たくもない。そのバランスは、火村先生やアリスさんが天才的に持ってる距離感と似てますよね。なんかフラクタルw

この短編集のテーマは「若さ」ですが。
若さは「自由」でもあるし、「軽さ」でもある。
じゃあ、「老い」は何かというと、「経験」と「分別」と「焦り」。
犯罪者は、焦るし自由を願うし命と人生を軽く見積もる。未成年者の犯罪は、「履き違えた自由」と「分別のなさ」と「軽さ」。

若さを未熟というなら、モロッコ水晶で、「未熟なのは弱すぎるんだ。弱いことはこんなに危険なんだ」というようなことを火村先生が言ってましたね。

かろうじて犯罪者の側に立つことはなかった若き日の火村君には、憎悪するという経験と、踏みとどまる分別と、が、大きかったのかな。えらい老けてるなあ(苦笑)。でもこれはもともとが老成していたからなのか、それとも若かった彼を経験が一気に大人にしたのか。
アリスさんも。若い日、傷つき苦しんで、繭を構築することで自分を守った。焦りもあっただろうし、こんなにきつい思い出を経験として人生に刻むと、若くても軽やかさのいくらかは犠牲になるでしょう。
あの五月の出会いで、二人は二人ともが自分の人生に一生消えない傷を経験として持っていたからこそ、波長が合ったんですよね。どちらかがただ軽やかな若さに光り輝いている人ではダメだった。

改めて、わたしは心からこの火村シリーズが好きだと思いました。
楽しく読みました。



新刊が出たばかりで何ですが、昨日サイン会に並んだあとでお茶してて話してたこと。

火村シリーズ長編って乱鴉以来?そろそろ読みたいねえ、火村シリーズで長編。
国名シリーズって最後に出たモロッコ水晶はいつだった?そろそろ国名シリーズ新作読みたいです先生。

ファンの要求は鬼のようです。

(2013.9.8 読了)
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