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『娘の結婚』 小路幸也 著(祥伝社)

2013/09/26(木) 00:34:34 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
娘の結婚娘の結婚
(2013/07/25)
小路 幸也

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 めっちゃ分かりやすいタイトルですね(笑)。小路さんのことや作品を知らないひとが本屋さんでたまたま見つけたとしても何がテーマなのか一目瞭然w
 男性は胸に来るものがあるだろうし、女性、お付き合いしてるひとがいるとか、はるか昔に嫁入りしたかつての娘さんにも、ぶわあっとこう……もちろんわたしも泣きましたさ。
 ミステリじゃないのでネタばらしの心配はしなくていいし、あまりにも分かりやすいタイトルどおりなので先に既読したひとの感想をインプットしてからこの本を読んだとしても、たぶんぜんぜん大丈夫です。




 

なんでこうも小路さんの小説のなかで作って食べられるご飯は美味しそうなんだ……!
品数豊富で栄養バランスもいいし、難しいこと考えずにさらっと作ってるっぽいのにお腹大満足でわざわざ食後のデザートとか必要なさそう。

って、思いませんか?小路クラスタの皆様。

そしてやっぱり、女性が凛々しい。
娘の実希ちゃんはもちろん、亡くなったお母さん佳実さんも、マダム綾乃も。

男性は一見クールでも情に篤くて誠実。筋がスッと通ってるかっこよさ。

ミステリーじゃないので、被害者フラグが立つような悪い人はもちろん出てこないし、それどころか悪意そのものが、ない。

いや、正確にいえば、過去には悪意があった。でも実希ちゃんと真くんの結婚の障害になるような悪意はこれっぽっちもない。

ただ、結婚しようと決めた男女がいて、古風というか手順どおりに娘さんを僕にください!って一生モンのストレスを経験しようとする2人と。
ただ、娘の幸せだけを願っていろいろ考えて考えて不幸になりそうな種は摘み取っておこうとするお父さんと。

この物語は、「結婚」がもちろん大きな柱ですが。

「話し合うこと」がテーマでもあると思います。
とにかくよく会話を交わす。交わしてる。
現実に、ここまで話し合い分かり合おうとする関係は、そうそうないと思う。
読者は、読んでて照れるかもしれないとも思います。

でもさ、照れずに話せる相手がいることって、たぶん夫婦でなくてもかけがえのない人ってことですよね。

これまでの小路さんの作品は、ストーリーの核となる謎や秘密があってそれを小出しにしつつクライマックスで真相をバーン!みたいな感じなのでキャラクタのセリフもモノローグもそこをするりとかわしながら展開していったんですけど。
この新作は、逆に、ほとんどの隠し事はしません。秘密も持ちません。みんな、言葉を選びつつも隠し立てせずに相手に(読者に)正直に打ち明けます。
それも、相手を信頼していないとできないこと。
その信頼が、お父さんという実直で厳しくもあたたかい人柄に乗って、読み手に伝わってきます。

九章〈生きていくこと〉からはもうラストまで、涙腺崩壊。
なんでしょうか、このこみ上げてくるものはっ。
おでこに手を当てた感触を心に刻むお父さん……(涙)
お父さんの心境、娘の想い、婚約者の必死で真摯な眼差し。
そして、お父さんの、婿さんを見極める冷徹なまでの、眼。
「そこから、逃げるな」に痺れました。

貴重な友達、かけがえのないひと、大切な家族、親と子の葛藤。
どこにでもありそうで、たぶん一番難しい、人と人のつながりを守り育てる心。

普遍的な「結婚」というテーマでありながら、恋人や夫婦や親子や友人など自分を取り巻く人間関係の有難さまで読み取りました。
両家のお父さんズは、新しい親戚というだけじゃなくて、きっとこれからいい飲み友達としてのお付き合いもできますよね。そしてそれが、もし今後、大事な娘の実希ちゃんに心配したとおりのことが起きたとしてもお父さんズで食い止められるだろうという、娘にとってはこの上ないアシスト。
実希ちゃんは本当に幸せなお嬢さんです。

そのうち、一人暮らしになったお父さんの家に、柴山さんだけじゃなくてマダム綾乃もやってきて、楽しいお酒を酌み交わすこともあると思う。
そんな、静かで穏やかで安らいだ居間のシーンが、エンドマークの向こうに続いてるような気がしました。

ところで。

わたし、読み終えて気がつきましたけど。

このお話、小路さんの初期作品のひとつ、『ホームタウン』と表裏一体というか、対の物語ではないのかな。
百貨店。義弟になる人物/婿になる人物が、主人公の勤め先とそう縁遠くない。
『ホームタウン』では音信不通状態の妹の結婚の知らせから始まり、一方この新刊は父子家庭でまっすぐに育てられた娘の結婚に端を発し、2作品とも結婚しようとする2人を取り巻く環境に、もやもやと薄暗い霧のようなものが。
『ホームタウン』はミステリーというかハードボイルドで派手に事件が表面化してくるのに対し、こちらはあくまでお父さんの心の中に巻き上がる靄ですが。
過去の凄惨な事件がきっかけで離れて生きざるをえなくなったせいでお互いの近況をなにひとつ知らない兄妹と、太陽のような妻/母を亡くした2人が寄り添い助け合ってきっちり向かい合って生きてきた父娘と。
ポジとネガのようでしょう。

シンプルなだけに、長編にするには難しかったんじゃないかと思いますが、見事に泣かせていただきました。ありがとうございました。

心が疲れて、誰かと会話するのも怖くなったとき、この本はヒントを与えてくれるような気がします。
お勧め!

(2013.7.26 読了)
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