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新装版『黄金旋律』 村山早紀 著

2013/06/30(日) 12:40:50 村山早紀 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
黄金旋律 (PHP文芸文庫)黄金旋律 (PHP文芸文庫)
(2013/05/17)
村山 早紀

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 以前、角川から出た単行本が、あれから大震災やいろんな出来事に見舞われた日本を組み込んで、新たに文庫化されました。
 もちろんストーリーは変わりませんが、リアルでたくさんの出来事を飲み込んでいるぶんだけ傷ついたわたし達読者の心に、そっと差し出される冒険譚は涙を笑顔に変える魔法の書ではないかな、と思います。
 角川版のを読んだときに散々泣いて叫んでとっちらかった感想を書いたので、今回はちょっと落ち着いて書こうと思いました。……ますます意味不明になりましたすみません!



ミステリには、初読で事件発生から名探偵や刑事さんが捜査している様子からやがて真相に辿り着いてトリックや動機や真犯人の名前を知ってどんなストーリーだったかを全部把握した上で、改めて最初から読み返す、すると初読時には気づかなかった伏線や手がかりがちゃんと嵌め込まれていて、やられたなあとか巧いなあと感心しつつも今度は名探偵よりも早くに真相や犯人を知っているという余裕でじっくり読み込む楽しみ、というものがありますが。

この新装版『黄金旋律』は、加筆されていることは承知していてもプロットそのものが変わるわけではないので、この先にどんなことが起きて臨くんがどうなって、その世界はどんな感じなのかは知ってるんですそれなのに、こんなに緊張して怖くて不安なんです。
改めて読み返す臨くんは、自由でやさしくて理知的でそして幸せになっているだろうか……。
旧版よりも悲しんでいて孤独でつらくて痛々しかったら、読んでるわたしも一緒に負う傷が深くなるから……。
傷つきたくはないですよね、誰でも。
それは、小説の中の主人公でも同じことです。
傷ついた心を癒す存在が、極端に少なくなってしまった世界で、臨くんは旅に出られるんだろうか……そんなふうに。



三つの章に区切ってありますが、おおまかに分ければ、臨くんの眠る前と目覚めた後、ということになりますよね。

で、眠る前、角川版で、臨くんにどんな試練が待っているかを知っていて、村山先生は「加筆により、いっそうシビアになった」旨のツイートをされているのも承知のうえで、臨くんにあのカタストロフが起きないでくれればいい、と願ってしまう、そんな気持ちで読んでいました。
そしたらね。

…ちょっと、きつい言葉を書きます。
でも、これを書いて並べないと、臨くんは呪いから解放されないと思うから。

「ひとり」と「孤独」が天と地ほど違うこと、そして臨くんに必要だったのは「ひとりの時間」だったこと、
泣くべきときに泣かないで無理に笑ってしまう努力とひたむきな愛情が受け止めてもらえないのは、それが自己満足でしかないから…、
不自然な笑顔を気持ち悪く思う弱い両親と、それを見つめ続けた優くんの強さ、
守りたい一方で、実はもしかしたら疎ましかったのかもしれない、臨くんの優くんへの無意識、
「愛情」をひたすらに間違え、息子ふたりを亡くさなければ大人になれなかった神崎夫妻の弱さと哀れは相変わらずつらくて、
善意や愛情や尊敬や友情が、100%そのままの形で相手に届くことは稀だし、届くのにも時間がかかる。
与えられるにしても奪うにしても、ともかく愛情が喜びに変わるために、いったい何が必要なのか。

その愛情を巡らせるほんの一瞬の真摯な眼差しがあれば、臨くんと両親と優くんとアルトをより強固に結びつけてくれたのに、歯車を回すための眼差しが届かなかった家。家族を信じられなかったから現実を受け止めきれずに。


そして、目覚めた後の世界で。
優くんからのメッセージを受け取った臨くんは。
老いた優くんの姿に説得された。
眠る前の自分たち家族は、父は母を受け止めず、母は自分を軽んじ、自分は従兄弟を哀れなペットか何かのように捉え、そして一番弱い立場のアルトと優くんだけがすべてを受け止めていたこと。ひたすらに案じ追いかけてくれていたこと。
寄り添うという言葉より、追いかけていてくれた、という言葉の方が、臨くんには救いになるんじゃないかと思います。
臨くんが、相手の言葉や表情や仕草を信じられるようになるには、コールドスリープしかなかったのかなあ、と思うと、本当につらいです。

そんな膨大な時間の向こうに、人間とロボットが共存する未来の世界。

孤独になって初めて、自分の意思で自由になった臨くん。
荒涼とした心象風景です、が。自分の人生を歩いていくチャンスは無限の可能性となって目の前にある、という使い古された惹句が文字通りの意味で広がっていて、旅人の魂そのものなんですね。
はるか昔に両親が払った代償が大きかったように、臨くんの孤独もまた、時のかなたに。地平線の果てに。

人間は、他の誰かとつながりあい、知識を共有し、残し、あるいは活用し、変容させて進化させていかなければ、後の世代に受け継いでいかなければ、人類の持つ能力を発揮することができない---そんな一文があります。
臨くんがそう実感する人類の未来は、人類に絶望し否定したカガクシャたちが導いたアルファのような、また半獣半人のソウタたちのような存在を是とするのか?ふと、そう思いました。

文明が滅びてしまうと、どうしても避けられないのが、知識の退化。
それは、人類という種の退化と同じ意味を持つと思います。
が、一方で、それは新たな人類への進化という光でもある。
過ちを繰り返してきたのなら、過ちを繰り返さないように「伝説」や「神話」として語り継ぎ、未来に運ぶ意志が。
いつか人類が飛躍する日まで。
それは、臨くんが長い眠りについたときに、家族や友達や病院関係者のみんなから託されたことと、まるで同じ。
目覚めた臨くんが飛躍する日を。

ソウタにとって、風野老人と臨くんは同じ、さまざまな知識を与えてくれる「先生」という存在になった。
でも、ソウタと臨くんは、ともに自分を解放することを熱望する、似たもの同士だった。
またソウタとアルファは、胸の中にあいた穴を埋める何かを、人間の愛情を渇望する共通の生き物だった。
ここに、輪が完成しますね。
臨くん=風野老人=ソウタ=アルファ。ひまわりさんやテディにはほんの少しだけ理解できない何か。

それはたぶん、神様。ロボットにとっては人間が創造主でしょう、でも人間にとっては、神様という概念があって、それは時間ともいえるし進化ともいえる。「死」「始まりと終わり」と考えることもできますね。

臨くんがはるか昔に見た夢につながった、荒野の未来は。
長い眠りについた臨くんのぶんまでがんばった優くんと、かつて優くんががんばった世界に目覚め歩き出す臨くん。
まるで、エッシャーの描く不思議な絵のようじゃないかな。
メビウスの輪でもいい、つまり無限に続く。

それが、地球という惑星があり、太陽と月が空に昇る限り途切れることはない、風が運ぶ旅人の姿になって。

物語という不滅の命を与えられて、はるか未来に運ばれる、『黄金旋律』というバイブルになったんだなあ。

しみじみと、そんなふうに思いながら。

アルトを偲び健気なアルファに咽び泣いたわたくしでございました。(なんというオチ……)


これから続くという、臨くんたち一行の旅の物語を、楽しみに待ってます☆

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