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『聖域』 大倉崇裕 著

2008/09/04(木) 08:21:17 大倉崇裕 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 山岳ミステリとして傑作だと呼び声の高いこの作品。
 注目度も相当なようで、図書館の予約数もすごいです。
 私に登山の知識も経験も無いのでどうなることかと思いましたが、一気読みしました!面白かったですよ。
 というわけで、未読のかたはこれより先にはお進みになりませんよう。




大倉先生といえば、思い浮かぶのは刑事コロンボ(笑)。
先生の作品は何作か読みましたが、あまり合わなかったんですよね。
でも、この作品は。
山岳知識なぞ皆無なのにそれでも一気読みさせるだけの力作です。「山岳ミステリを書くのは、私の目標でもあり願いでもあった」という、その迫力がありました。

大学時代の山岳部でライバルとしてパートナーとして共に山に登った安西が、死んだ?山岳のエキスパートとして申し分無い実力を持ち、世界の最高峰を極めたほどの男が、何故難易度の低い塩尻岳で滑落したんだ?
その知らせにどうしても納得できない草庭。ある事故の所為で3年前から山を離れた自分を、何故両神岳に誘ったんだ?
自分なりに安西の行動を調べていくうちに、少しずつ事態が動き出していく…。

いいねえ、男の友情…。いやそうじゃなくて(…ん?合ってるのか?)、山の知識が無ければ書けませんね、これほどの描写は。
ザイルとかは知ってても、細々した登山道具の名前やら山のルートやらはさっぱりなんですが、でも読み進めるうちになんとなく、そのイメージが頭に浮かんでくるんです。
また、山に関わる人達は、縦はもちろん横の繋がりもたくさんあるんですね。
主人公の草庭くんが少し動くだけで、その行動が恩師やら○○山岳会やら大学OBやらが後を付いたり電話攻勢をかけたりして、平地にいればめっちゃうっとーしい人間関係かもしれませんが、山に入るにはこの人間関係がものを言いますからねえ。

えーと、主要な登場人物の中で一番年少なのが、語り手の草庭くんと安西くん、モノローグでは牧野絵里子ちゃんも含まれるかな。(草庭くんと小野寺さんの勤める会社には、後輩の田中くんがいるけれど、事件には無関係)
で、草庭くんを学生時代からずっと見守ってきた小野寺さんとか<喫茶アルプス>のマスター・矢崎さんとかワガママ大王にしか見えない柳原教授とかの草庭くんサイドの人たちも、安西くんの行方不明とそれに先立つ安西くんの彼女だった牧野絵里子の遭難に関して何かを知ってるらしいベテラン登山家の杉山・高井・小田・森井さんたちにしても、みんなかなりのオジサン、森井さんに至っては高齢ですね。
でも、この“年齢”が、ひとつのキーワードになってたのか。全然無理が感じられなくて、若さに任せて色々と痛い目にあう草庭くんがそれでも少しずつ真相に近づいていくなか、トシの所為で焦り出すベテランクライマーの対比。

最初は安西くんの遭難というか行方不明。絵里子ちゃんと違って遺体が発見されないから、草庭くんにはどうしても信じられない。
そのもやもや感を追ううちに、「安西は事故でも自殺でもなく、殺されたんじゃないか」という疑問を持った草庭くん。実際に安西くんの足取りを追って塩尻岳にも行って、で、そこで出会った謎の男性が長野県警山岳遭難救助隊の松山警部補だったという展開にも、都合が良すぎるとか全くなくて絵里子ちゃんの遭難に始まる一連の事件を共に探るいいパートナーだなあと。

草庭くん、カムチャランガから帰ってきたら、是非松山さんの勧めどおりに長野県警遭難救助隊に入りたまえ(笑)

鍵を握ると見られる杉山・高井・小田のベテラントリオを1人ずつ切り崩しにかかる松山さんのカッコイイことww
でもこの作品の探偵役は、あくまでも草庭くんなんですよね。
ただ、関係者とか喫茶アルプスのマスターとか恩師である柳原教授とか、今までに分かったことと仮定の推理を全部ベラベラ喋ってしまっていいのかそれで?と思ったことは確かですが、まあ、草庭くんが当たって砕けろのスタンスでいるもんだから何だかハードボイルドっぽい気もしますね。

小野寺さんにお世話やら迷惑やら掛け通しの草庭くん。
紹介してもらって入った会社でも色々と目障りな存在で、それでも山に登っていれば良かったんでしょうが、3年前に他大学から預かった山岳部の後輩を死なせてしまってからのうっとーしさには、会社の同僚さんにもちょっと同情したくなりますね。
それだけ山の存在が草庭くんを支えていて、安西くんはじめ柳原教授も小野寺さんも、そして実は江藤さんも見抜いてて、こんなとこでくすぶってんじゃないよ!と発破をかけてくれる。
山男って、いいねえ♪極限の世界に挑む所為なのか、人間の心の動きも気配も敏感に感じ取って親身になってくれる。
最初、殴り合ったり諍いばかりしていた江藤さんの、会社を辞めたシーンとかカムチェランガの為に日本を発つ彼を見送りしてくれたりとか……いい!この人、裏表がなくて亡くした息子を草庭くんに重ねて苦言を呈したりする役回りを自ら進んでしてたとしか思えないし、こんな人がいるなら職場は風通しがいいよ絶対!

というわけで、いろんなオジサンたちがウロウロしてるこの作品の一番好きなキャラクタは、憎まれ役の江藤さんなのでした(笑)。

事件の真相については……。
ちょっと物足りないかもしれません。
安西くんは行方不明であって、遺体が見つかったわけじゃないので、高井・小田両人の死の責任が彼にあるのにも、意外でもなく無理矢理感もなく。
ちょっと贅沢言わせてもらえれば、例えば安西くんと絵里子ちゃんと山岳会の狭山さんに何か繋がりがあって、それで狭山さんが真犯人だった!とかなら驚いたと思う。まあそんな伏線も無かったし…。
山を愛する人が、愛した女性の為に、山で復讐する。
安西くんにとって、山は“聖域”じゃなくなったのかな。
それを自覚してたからこそ、草庭くんを助けたし(雪崩に巻き込まれた草庭くんの、誰も知らない壊れてるはずの携帯を鳴らすなんて、草庭くんを愛してたとしか思えない/苦笑)、自分の死をもって、未踏峰のカムチェランガを草庭くんに託したんでしょう。

草庭くんにとっては、山はずっと「聖域」だったから。

今年の話題作は、やっぱり面白かった!
300ページほどのあいだ、まったく退屈しなかったし混乱も無かった。それは綺麗に山岳とミステリが絡み合っていたからでしょうね。
昨年の『サクリファイス』と似た印象を持ちました。

(2008.06.11)
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