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『ロスト・ケア』 葉真中顕 著

2013/04/30(火) 09:27:09 葉真中顕 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
ロスト・ケアロスト・ケア
(2013/02/16)
葉真中 顕(はまなか・ あき)

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 話題のミステリ。ええとこの葉真中さんて、別の名義でツイッターされていたり何か書かれていたんですよね?(←いい加減)
 で、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したこの作品、評判がよかったのでわたしも読んでみました。
 テーマがテーマだけに、面白いと言っていいのかちょっと迷う……(汗)
 ネタばらしをしないで書こうとしたら、ほとんど何も書けなかった……どーでもいい主観ばかりですが、それでもいいですか?

 


本当にね、これ、面白がってる場合じゃないと思うんですけどね……。
老人介護の厳しい環境を、舞台にも、テーマにも、そして動機にも絡ませて、…なんかつらく悲しくなってくるんですよね……。

いずれ、わたしも親の介護をしないといけない。
またいずれ、わたしも誰かの介護を必要とするかもしれない。

そのとき、「穴」が待ち受けているかと思うと、身が竦みます。
体の動くうちに、認知症でボケてしまわないうちに、いっそ寿命がくればいい。そんな罰当たりなことまで考えてしまう。

介護に、夢や未来は描きにくいです。

その、「夢や未来」を、「ロスト・ケア」という物語に仕立てた作者、というよりこの犯人か、犯人の動機が、孤独がやりきれなくなりました。

叙述トリックであるのはすぐに分かったし、犯人が誰かというのも途中で分かった。合ってた。

読みどころはきっと、犯人当てと同じくらいに、「穴」をどうやって塞ぐか、塞ぐまではできなくてもせめて浅くするか、「穴」の数を減らすか、もし「穴」に落ちてもロープや梯子が差し伸べられる社会になるか、そういうのをもっと真剣に、自分のこととして考えてほしい。ということだと思う。
実際に介護の現場に居たことがあるという、作者からの悲痛なメッセージのようで。

今、親がまだ元気なうちに、わたしがまだ歩けるうちに、介護保険のこと、もっとちゃんと勉強したほうがいいよね。
それと、老後のお金も貯めた方がいいのよね……貯蓄できないタイプのわたしはこのままだと「穴」に落ちる……。

この作品で一番の肝は、「純粋なデータのみで事件を顕在化させた」というところかな。
完全犯罪がかぎりなく不可能に近いことを踏まえて、完全犯罪を暴くために配置されたキャラクタ(検事と検察事務官)が、違和感からデータを洗い出して犯人までたどり着くって、斬新だと思う。
ロジックじゃなく、理系で暴く。こういう方法もあるのかー。

すべてが繋がっていて、あっちとこっちがリンクして、犯罪の形と犯人の動機が大友さんの下にさらされたとき、無傷なのは犯人で揺らぐのが大友さんという皮肉。
法を遵守し信奉する立場の人が、義憤にかられて涙し、さいごに縋るのが聖書(神とも宗教とも)という、人間らしいラスト。

偽善と偽悪。
正義と犯罪と、心。
偽善を嫌った彼も、偽善の中でしか生きてこなかった彼も、偽善と性善がイコールになってしまった人たちも。
自分の娘息子のことも忘れてしまう高齢者、自分のことを他人様に面倒かけてしまう苛立ちをセクハラや意地悪や粗探しで紛らわせるしかない高齢者の歪みと悲しみ。
みんな、かなしい。
人生って、計算どおりにはいかないし、社会や人をナメてたらしっぺ返しくらうし、基本トントンだと思うんですけど、どう考えてもマイナスになってしまう人も…。
そんな人を、救うことができないなら、そんな人を生み出さない社会を願うのは、少子高齢化社会、介護社会に突入した今の日本には当然の夢でしょう。


老いた親の介護、事故や病気で健常者として生きられなくなった家族の介護、介護もいろいろです。
ただ共通しているのは、介護する側もされる側も人間であり、命があり、尊厳がある。人生がある。
あっちを立てればこっちか立たず、ではダメなんですよね。
難しい。いくら考えても答えなんて出ないのかも。

昔、子どもは地域全体で育てる、というか、近所の怖いおっちゃんに叱られるとか両親が留守の鍵っ子が近所のお宅でおやつをもらって宿題しながら親の帰りを待つ、とか、そういうのが当たり前だったですが。
あれは、もちろん子どものためでもありますが、地域の高齢者の人たちのためでもあったんでしょうね。
どこの子であろうと分け隔てなく接し、社会のルールを教えることは、高齢者の気持ちに張りを持たせて孤独を減らし、たとえ介護が必要になっても閉じた家族の中だけじゃなくて地域全体でケアができるシステムだった。
無償で。
地域の有志が分担して。

昔に戻れというわけじゃなくて、新しい形にならないものか。そのひとつが介護施設だったわけですが、財産の有る無しで格差がつくのはおかしいんじゃないか?と、問いかけられて、そこで立ち往生してしまう。

ケアマネとか、ヘルパーさんとか、そういう「介護のプロ」の存在は、心強い。有難い。
でも、社会が、プロ任せに、頼りきりにしているのが間違ってる。
ケアマネさんやヘルパーさんの負担を考えてあげることも、忘れちゃいけないよ、と。

本格ミステリとしては、さっきも書いた叙述トリックというかミスリーディングで犯人当てとしても読める一方、社会派ミステリーとしても十分。

ただひとつ、気になったこと。
キャラクタの台詞の中であれば問題ないんですが、地の文章の中で、「~~している」と「~~してる」が混在していて、使い分けてる風でもないし、台詞の延長線上でもないし、あれはどうなのかな、と。
ブログやツイッターならともかく、商業出版されている小説の地の文章で口語調というか「~~してる」という「い抜き」?は、あまりそぐわないんじゃないかと思います。

ま、そんな細かいことはともかく、バランスのいいミステリではないかと思うので、興味のあるかたはどうぞです。
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