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『殺しも鯖もMで始まる』 浅暮三文 著

2008/09/04(木) 08:19:43 浅暮三文 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 講談社ノベルス20周年記念の、メフィスト賞作家による、<密室>をテーマとした競作書き下ろし本、だそうでして、つまり2002年。
 それを今頃読んでる私…。
 浅暮先生とミステリって、それも密室って、全然イメージが合わないのですが、読了した感想を一言で言うと、
「なんとまあ、浅暮先生らしいなあ」(苦笑)
なのにかっちりした密室ミステリなんですからもう(笑)
 という訳で、未読のかた、ネタバレがダメなかたは、ここで回れ右してくださいませ。





浅暮先生ってデビュー作の『ダブ(エ)ストン街道』からして既に独自の、独特の世界を書き切っておられましたけど、この<メフィスト賞作家による競作>の<密室本>という縛りがかかっても、一向に薄まることもなく。
出てくる人間は皆どこか変わってるし、そもそも一般常識が通用しないというか気にしない(笑)

北海道のとある小さな川にイワナ釣りにやって来た村上の爺さんと愛犬のゴン。
爺さんが「なんだ、ほりゃ、あれだわ」と釣り糸を垂れていると、背後でゴンがしきりに地面を掘っている。小判かのう爆弾かのう、と鍬を持ってきて掘ってみた爺さんが発見したのは、地底人、もとい人間だった。
地表から2mの深さの、どこにも穴の無い密室状態。その土中で見つかった遺体は、土にある文字を書き残していた。
---サバ、と。

これが物語の最初ですがもう、村上の爺さんもつかみどころが無いのに、警察の鑑識官も妙な人で、終始唯一常識的だと思われる担当刑事の加藤さんも、やっぱりずれてる。
まあ一番妙ちくりんなのは探偵役の樫村ダニエル小助。葬儀社の社員で青い目の長身。ただ、帰国子女の所為か(多分、いや絶対それだけじゃないよ/笑)言い回しがいちいちおかしい。日本語のことわざや慣用句に似た英語をさらに日本語に直訳したようでいて、でもそんなんじゃないしなあ…。
“悪党に安らぎなし”がどうしたら“貧乏暇なし”になるんだ(笑)
“誰のベルを鳴らすか、色んな順番で鐘を鳴らしてみる”→誰に何かを思い出させるとか、いろいろ試してみるってこと。

わかるかっ!(笑)

……ところがねえ、読んでるうちに、なんとなーくニュアンスが分かってくるんですよこれが(大笑)。ほんまに加藤刑事と同じ心境。もう、いちいち問い質してみるんじゃなくて、自分で勝手に解釈してれば当たらずとも遠からずなんですから。
“粉飾”が“見せ掛け”ってことなんやろな、とか、“パイプラインの中”ってのは“それはまだ分からない”ってことか。で、“ペニー硬貨が落ちる”が、“やっと分かった!”………。

もう、このみょーな言い回しを考えるだけで頭使いますよ本当に。

で、それでちゃーんと樫村青年が問題の糸口を辿っていって、真相に近付いてるんだから喰えないよねえ、この子(笑)

肝心の密室殺人の方ですけれど(うっかり忘れそうになるんだわこれが)、『似非エルサレム記』では、とうとうエルサレムという土地自体を動かした浅暮先生(笑)、土中の密室を作るのに川の流れを変えるなんてちょちょいのちょいですよ☆☆
でもって、こんなの全く現実的じゃないし、可能か不可能かを考えるなんてナンセンス!(笑)多分これはバカミスという括りでいいと思う。

どっちかっていうと第二の事件、ドアの内側と外側の二重のロック(一見、完璧な密室)の、めっちゃオーソドックスな作り方の方が「ああ、本格ミステリらしいなあ」と思います。ただし、犯人がこれを犯罪に利用できるほどに、何の気なしに目にしたロープの結び方を憶えられるものなのかな、ともちらりと頭をよぎるけど。インパクトはあります。

で、ダイイングメッセージの“サバ”と“ミソ”ですけど。
これ、よく言われる「ダイイングメッセージを残すなら犯人の名前を書いとけばいいのに」、「死に瀕した人が果たしてまともな文字を書けるのか」という問題を二つとも取り込んでますね。だからこそ、パズルというよりクイズのようになってしまうんですが、でも少なくとも「さば」にはもうひとつの伏線を噛ませたところが、キラリと光ってます。

なんにせよ、刑事が望まないうちにワトソン役になるのではなくホイホイと探偵の青年に情報をあげていたり、村上の爺さんがクライマックスでちゃちゃを入れたり、犬のゴンまで良い仕事したり(笑)。すちゃらかさんばっかりですよ。
一番不憫だったのは加藤刑事の部下の山崎くんですが、とうとう最後まで一言もセリフが無かった上に、新婚ホヤホヤの奥さんが怒って実家に帰ってしまうまであちこち引きずり回され……。ご愁傷様です。

バカミスと本格と、きっちり謎解きもしてダイイングメッセージも意味があって、ちゃんと「ミステリ」です。
ただ、浅暮先生独特の世界の上でのことなので、登場人物に感情移入できないわ、雰囲気も全く深刻じゃないわ、死者の哀しみも容疑者の胡散臭さも犯人の言い分も素通りした、パラレルなミステリ。
読者を選ぶかもしれませんが、浅暮先生の作品に触れたことがあるなら大丈夫。笑って読めますよね。

こういうミステリは、多分後にも先にもこの作品だけでしょう。
ある意味貴重です。
読んで損はしなかったですよ私は。

(ジャック・ロビンソンって、誰?)

(208.06.04)
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