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『深い疵』 ネレ・ノイハウス 著 

2013/02/01(金) 19:19:35 海外ミステリ THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
深い疵 (創元推理文庫)深い疵 (創元推理文庫)
(2012/06/21)
ネレ・ノイハウス

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 ネットでとにかく評判がいい!というので。読んでみました。
 わかりました。評判がいいわけです。面白かった!
 最近、ヨーロッパ各地のミステリの勢いがすごいですよね。この作品の著者もドイツのひと。
 ナチの闇が今に続くお話ですが、それに抵抗がなければ読んで損はないと思います。




それにしても、このネレ・ノイハウスさんて本当に女性?
すごい複雑なお話なんですけど!
日本のミステリ作家さんで、女性の作家さんて、多くはサスペンスというか心理的なもの、もしくは極端なイヤミスという作品を書かれるかたが多くないですか?
こんなにドライに、心理サスペンスやドロドロした部分を削ぎ落として日本でいうストレートな本格ミステリ(海外では古典ミステリ)を書く女性作家さんって!それもこんなに込み入った展開を書き上げる才能が女性にも遜色なくあるなんてねえ(女性を卑下してるわけではなく、さっきも書いたイヤミスっぽくならない、という意味で)

結構分厚い文庫で長編、それでまったく展開を急ぐことなく粛々と淡々と、ただ死体の数を増やしていきます(笑)
で、この死体の数というか、連続殺人ですから死体になった人数の方が圧倒的なんですけど、運よく死体になるのだけは免れた人もいて。読者には姿の見えない殺人者に襲われたキャラクタのすべてが殺されなくて助かった、というのがせめてもの救いを感じるというか。
それだけ、事件は猟奇的で悲惨で、実は犯人の動機というか事件の背景はもっと陰惨でやりきれなくて、天を仰ぎたくなるような。
あ、「日本でいうストレートな本格ミステリ」とさっき書きましたが、偶然や事後重犯でない限り真犯人が単独犯であることが多い日本のミステリとはひとあじ違います(だからたぶん、年末の本ミスベストにはランクインしなかったのかな)。……ていうか、これだけ時系列と関係者が複雑に絡み合ってたら、いろんな罪状てんこもり(時効がないから昔の犯罪者まで一気にお縄になる!)になってもしょうがないですよ(笑)。
それでも読後感は爽やかで、フーダニットとしてもフェアだなあと、わたしは感心しましたですよ。

そんなわけで、かなりの人数の登場人物の、誰一人としてムダ使いしてないのもすごい。
最初は「えーと、これ誰?」ってしょっちゅう登場人物一覧に戻って、確認しながら読んでたんですが。
一覧に出てくる名前が一通り全部出てきて、事件がますます混沌としてきたあたりから、もう止まらない止まらない。
死体が増えるごとに、事件が重なってくるごとに、前の事件のおさらいをしてくれる親切設計w
なので何とかついていけました。
警察側にもめんどくさい人や嫌な人がちらほら出てくるんですが、オリヴァーとピアのコンビの絶妙さと透明感が、そのもやもやを吹き飛ばしてくれます。
オリヴァーさん、つくづく恵まれてるなあ、と思うよ(笑)
(AXNミステリーの、〈リンリー警部の事件ファイル〉と似た感じです。上流貴族の男性上司と一般市民の女性部下のコンビ。住む世界が違うからシンデレラみたいな恋愛関係にはならず、相棒としてお互いを信じ思い遣るベストな二人。)

ああ、著者のネレさんが女性だということにうなずけるとしたら、このキャラ造形かな。
ピアさんやオリヴァーさんの奥さんなどごく一部を除いて、ほとんどの女性キャラがまあ怖いw
そして、オリヴァーさんがある意味で理想の王子様というか、仕事のデキるオトナの男はこうあってほしい、みたいな願望の形かも、と思ったり。
なにより、主人公の一人であるオリヴァーさんにフォンの称号がついていることからも、ヨーロッパのどの時代であれ貴族社会、それも上級貴族の社交界をときおり覗かせるとか、そういうのは女性の憧れでしょう。オリヴァーさんのものの見方や考え方が、貴族という育ちの良さに根ざしてるとか。
ドロシー・L・セイヤーズが、探偵役に自分の理想の王子様を形作ったのがピーター卿だったように。


事件にナチの影が見えてきて、そのことにキャラクタが示す反応が、改めてドイツの戦後教育って凄まじかったんだなあ、と思いました。
被害者がナチスの武装親衛隊員と分かるシーンが出てくるたびに、刑事も関係者も、みんな一様に嫌悪感を示したり信じられないと呆然としたり…。
ドイツが第二次大戦のナチスの悪逆非道を心底恥じていて二度とこんな歴史を繰り返さないようにと必死に教育してきたんだな、と。
日本は戦後、ここまで徹底的な自己否定ってしたんでしょうか。国民総骨抜きの平和ボケにはさせられたけども。
いまだに戦後保障しろとやいやい言ってくる隣国と揉めている今を思うと、ドイツと日本の違いってどこにあったんだろうかと……。

いろんなことを考えさせられた一冊でもありました。

とにかく長編なのに冗長な部分がまったくなくて退屈しない、面白いミステリです。
これ、邦訳第一弾なのですが実はシリーズ三作目らしいので、他のも読みたいですねえw
ドイツではもう五作目まで出てるそうです。
ほくほくw


(2012.6 創元推理文庫)
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