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『江神二郎の洞察』 有栖川有栖 著 

2012/11/17(土) 17:50:18 有栖川有栖 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)
(2012/10/30)
有栖川 有栖

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 学生アリスシリーズの初短編集です。
 ですが、時系列に並べられていて先の短編のことが後の方に書き込まれていたりするので、なんとなく長編を読んだような趣きもありました。
 作家編にはない瑞々しさと若々しさ(いや作家編が枯れているということじゃなくて!なんとなく乾いたイメージがあるのですよ火村&作家アリスコンビって!←必死。)、それから蒼い痛々しさのようなもの。青春ですねえ…。

 


あとがきにあるように、本当にEMCの(マリアが加入する直前までの)面々の、アリスが一回生のシーズンを写し撮ったアルバムを丁寧に見ている気がしました。
だから、じっくりゆっくり読んでました。

ひょんなことから江神さんと知り合って、EMCに入部して、楽しくゲーム感覚の謎解きに興じたりミステリ談義に花を咲かせたり。

そして、『月光ゲーム Yの悲劇'88』でのあの惨劇が、アリスをはじめEMCのみんなの心に暗い影を落とし…。

その心の傷がどう癒えていくのか、それでもミステリマニアを返上しなかった彼らのひたむきさ。

今度、学生編の新作(短編長編にかかわらず)がいつ読めるのか見当もつかないので、噛み締めるように、既読のお話も加筆された部分を楽しみながら、読んでました。

アレですよね、江神さんは、アリスが入部したときからずっとあんな感じで、きっとアリスが大学を卒業するときもそこに居そうなくらいにあんな感じなんでしょう。頑固に変わらないんじゃなくて、傍から見れば同じ樹でも、近くにいると樹の色や節の形なんかが明らかに違っていると判別できるというか…でも「樹」という本質は変わらない。

学生編は特にですが、有栖川先生のミステリは、ロジックを重視する本格ミステリでありながらも、全体として流れるような“物語”であり、ミステリは小説じゃない!と叫ぶ人にもしっかり読ませる推理小説だと思います。
以前、講演で先生が仰ってましたが、純文学は「人生について、など、答えのない物語」(超適当な超要約)で、推理小説は「人工的につくられた謎の答えを書かなければならない物語」(同じく超適当な超要約)だと。
ミステリとしての謎解きはしっかり、それでいて「江神さん」という「秘密めいたプライベートの答えがあるのかないのかわからないミステリアスな存在」が中心に立つことで、物語性も高まっていて、きっとそれは作家編の火村准教授の「人を殺したいと思ったことがあるから」という過去の秘密も同じことで。

要は、有栖川作品というのは、謎解きと物語との共生が成功しているんですね。ミステリーが嫌いでもとりあえず有栖川作品は読んどけ、みたいなw

もうひとつ、特に書き下ろしの『除夜を歩く』を読んでいて思ったことですが。

この中の江神さんとアリスの「ミステリとは何ぞや?」なミステリについての対話、ミステリクラスタさんたちは圧巻だ、と評判がすこぶる良いのですけど、この流れって最近の作家編でもありましたよね?ここまで踏み込んではなかったですけど。

江神さんが語っても、作家アリスさんが語っても、火村先生が言うのでも、つまりは実作者の有栖川先生の想いが込められているのでブレようがないわけですが、学生編と作家編のリンクのさせ方という初期設定を考えると、学生アリスは江神さんとのこのディスカッションを創作に書き込んだのであり、作家アリスさんは自分の想いを自分が創り上げた名探偵・江神二郎に語らせることになっていて、学生編と作家編は閉じてない世界・常にフィードバックされる関係で、まさしく車体の両輪であるわけです。神の視点の読者側から俯瞰したら面白い構図ですよね改めて。

江神さんが言うのと、火村先生が言うのとで印象が違うのだとしたら、同じく名探偵でありながらそれぞれの個性がうまくブレンドされたキャラクタの、小説世界での成長というか一人歩きってことかなあ、と。


短編集で、一編を除いては京都を離れていないので、EMCのメンバーとともに京都人のわたしも一緒に懐かしい京都を歩いたような感じがしました。

昔の京都駅や、特に京阪の当時の描写が。そうかー、この頃に京阪の七条~三条間が地下駅になってんなあ、地上駅だった頃の三条の鴨川沿いの桜並木まで思い出したよ物心ついたときから京阪に乗ってた人間なので♪
まだ丸太町や出町柳の駅もなくて、市営地下鉄や市バスが大学生の主な足で、学生さんの街はマンションより下宿の方が多かったのかなとか。

言葉にこだわる有栖川先生らしく、大阪人のアリスの話す言葉と、京言葉との微妙な違いも書き分けられてましたね♪
…ただ、前にもどこかで書いた気がするけど、宮津市出身の江神さんの丹後地方の方言が抜けて京都市内の言葉になったのっていつなんでしょうか(細かい!)。舞鶴に祖父母がいるからよく知ってるけど丹後の言葉ってわりと独特なんですもん、それを知ってる京阪神の読者は一度は思ったことがあると思うです。



さてさて、次に学生アリスシリーズの新作が発表されるのはいつでしょうか。長編よりは短編の方が先だと思うけど。
気長に、そしていつまでもお待ちいたしますw


(2012.10 東京創元社)
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