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『FOR RENT 空室あり』 森谷明子 著

2012/11/09(金) 23:13:18 森谷明子 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 書き下ろしです。なので期待大でした。
 途中で殺人事件が起こったりすることはありません。んー、スリーピング・マーダーのひとつ、ですか。迷宮入り事件の再捜査じゃなくて、少年の母親が亡くなる間際に遺した言葉が無視できなくて過去を探っていく、というお話。
 ですが。
 笑うところがどこにもなくて、ひたすら重いです。でも面白いです。
 わたしがこういうことを思うのはあまりないんですが、これは映像化してほしい☆



現代モノで、そんなに起伏が激しいものではない(むしろ地味な)展開で、こうまで読ませるミステリがたぶん良質のミステリなんじゃないかと思います。
スピード感にあふれた派手な展開でぐいぐいのめりこませるのも悪くないんですけどね、地味~に静か~に読者を最後まで惹き付けながらきっちり事件を紐解くミステリの方が書くのは難しいと思う。

少年の体にある印象的な、痣。
昔、何かの事故でできたものらしい。

そこから始まって、少年の母親の遺言と重なって、少年(と、その姉)の過去を辿り、母親の言葉の真相を突き止めようとする。

んですが。

確かに、少年の頭脳はハンパなく速く回転してる。
そしてたぶんそのことが、少年の自負心でもある。

けどラストで明かされたこの真相はねえ、…いやーキツイわー。

これが森谷さんの筆致だと、すごく品良くまろやかになるもので、さらりと読めてしまうところが怖い。

それぞれが隠し持つ秘密、忘れたい過去、その重さ軽さは一概には言えないですが。
隠し事が巧い人は、自分の人生を諦めていない人だと思ってました。でもそうじゃない人もいて。

女性キャラの邂逅シーンは、やっぱりその衝動が少しだけ理解できるような気がします。

姉の言葉、告白に意図があるのはすぐ分かったし、その真実(父親)もピンときたけど、一番でっかい秘密はやっぱり桂子さんだった。
もうこれだけでもネタばらしに近いんですよー!(汗)

森谷さんの作品に馴染みのあるかたなら、あぁらしいなあ、と思うんじゃないかなー。

ゲスト的なキャラクタにもそれぞれに抱えた秘密があって、それが人生の推進力になってる。
ていうか、何ひとつの秘密も持っていない人って、魅力が薄いというか無いに近いんでしょうかねえ。…わたしの秘密……そんな大層なものが無い……ええとどうしようこの結論(涙)


秘密をどこまで隠して、どこまで明かすか。
秘密は風化するのか。美化されることのない重い秘密を墓場まで隠し通すことが可能なのか。
それは、知りたいと思った人の意思次第。
秘めて生きる人にはその決定権がないんでしょうね。

人を見る目が曇らなければ。
自分を一番大切にした方がいい人と、しすぎて人格ゆがんだ奴との組み合わせの不幸。

人間って、持って生まれた気質はもちろん、環境で形成される部分も大きいからねえ。

ラストは光あふれる幸せなシーン。

ですが、わたしはこの光の中にどうしても影を思う。
彼女にはどうか、諦めないでほしい。いくつになってでも幸せを掴んで欲しい。

少年は、最後まで少年でした。
真相が暴かれてから数年が経っていても、読者には「少年」のまま。
それはきっと、彼女の心に寄り添ってしまったからでしょう。
少年には最後まで、名前が、ない。
彼女はそうして、名前を忘れることで区切りをつけたんだと思います。

タイトルの「空室あり」というのは、少年の過去であると同時に、この数年後の彼女のことだったんですね。
そんな繊細なサブタイトルが心に残ります。

本当に、映像化に向いてるミステリ小説だと思います。
実現したらいいな☆


(2012.10 幻冬舎文庫)
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