こんな本読みました。

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『ナモナキラクエン』 小路幸也 著 

2012/09/26(水) 14:52:51 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT

 単行本化はまだかまだかと小路さんファンが待ち焦がれた一冊。わたしも文芸誌に連載されていた当時に飛び飛びで読んでましたが、うっかり読めていなかった部分もあったので、本当はやく纏まってほしい作品でした。
 今年に刊行された小路さんの作品は、どれもみんな、一段上がったような印象を受けます。これもそのひとつ。
 安っぽい感動よりも、もっと地味で静かであたたかくて長続きする、そんな喜び。





楽園。
山紫水明。

4人の子ども達に、山、紫、水、明、と名づけた志郎さんは、楽園を作りたかったという。

山紫水明。
きっと、「地上」を、美しく清らかな楽園にしたかったんじゃないかと思いました。
ただ、読み終えて読者に明らかにされた秘密を知ってもう一度。
きっと、「醜悪なもの、陰惨きわまりないものが厳然としてそこにある地上」を「美しいもので満たす楽園」にしようと思ったんですね。

光と影は表裏一体。
美しいものと醜悪なものは、どちらも同じだけの質と量で存在する。
どうせなら、マイナスの感情に時間を費やすより、美しく楽しく輝かしい可能性を保証された未来のために生きよう。

志郎さんと朝美さんとハマさん、神崎さんが守り通した秘密。
4人の母親の存在と、離婚の謎。

隠し通された秘密は、それはそれは衝撃的でした。
そんじょそこらのミステリ作家さんでも、ここまで謎を引っ張れる人はなかなかいないと思う。
それがまた、そこまでの流れの中にちゃんと伏線はあるんですよね。お見事!

志郎さんや朝美さん、サンとユカリとスイとメイの4きょうだい、はるかちゃんや仲田さんも含めて、さまざまな「個性」と「魂の自立」に突き動かされて生きている人たち。
「個性」を「花」にたとえて。
「自立」を「オンリーワン」にたとえて。
さまざまな花が、共存する、花園。それが向井家。
この花園は、広がっていく。
ココでなら咲けると思った花達が、吸い寄せられていく。
その花園には、もちろん、闇の部分もあって。
闇という穴を、花で塞ぐのではなくて、養分たっぷりの土壌で塞ぐ。
土壌がしっかりしていれば、そう簡単に穴は陥没しないし、その埋めた土の上でさえ花を咲かせることができる。
花が咲けばこっちのもの。勝ったも同然。

向井家のような家庭は、確かにそうそう実在しないだろうし、でも秘密の形や深さは違えどこういう事情の家庭がまるっきり無いわけじゃないでしょう。
ただひとつ。
咲く花に、罪は無い。
芽を出し、葉を付け、太陽に向かって茎を伸ばし、花を咲かせるその輝かしい営みを。
摘むな、手折るな、と。
種を遠くに飛ばしたいというなら、そうさせてやればいい。
好きな花と交わりたいなら、そうすればいい。
この花園は、安全だから。
この家は、安心していいから。

子ども達には毛ほども気づかせないで育て上げた志郎さんや朝美さんやハマさんたちの、その努力と愛情はまさしく太陽。
子どもを一人前に育て上げるということが、どれほどの努力と愛情と、そして沈黙によって成り立っているのか。
どこまでも深い井戸や、底が見えているのに実は足の届かない青く透き通った海、海風の記憶、砂の履歴。
マクロとミクロがひとつに溶けあったような、志郎さんの言う「誕生と死は表裏一体」という宇宙の法則がそこに見えたような。

とにかく、深く広く、また優しくて冷たくて、脆くて強い、そんな人たちの、夏休みの物語。
夏が過ぎ行くいま、これを読むというタイミングの良さを、じんわりとかみ締めています。


(2012.8 角川書店)
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