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『築地ファントムホテル』 翔田 寛 著

2012/06/27(水) 00:00:40 翔田 寛 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 翔田さんの最新刊です。ずっと読まないと読まないとと思いつつ積んでましたごめんなさい。(だから買うとつい積んでしまう…図書館本で期限が切ってある方が、さくさく読めるよね)
 AXNミステリーの講談社の番組で、翔田さんがこの新刊についてのインタビューに答えていらして、ああこういう話し方をなさるかたなのねえ、とか、江戸~幕末~維新後あたりを舞台に書くことの意味とか。ほうほうと見てました。
 先にツイッターで読了直後に呟いたことでもういいかと思ったけど、一応感想書いとく。





長かった江戸の世が終わり、明治維新で社会全体が変革期の真っ只中。
築地に、外国人専用のホテル、「築地ホテル」があり、政府に招かれた学者から商機を狙うビジネスマンまで多くの外国人が逗留しているこのホテルで、突然火災が発生。
焼け跡から、火事によるものではない死因のイギリス人の遺体が発見される。
横浜に住むイギリス人の写真家、フェリックス・ベアトは、英語を教えている元・武家の出の東次郎を助手に従えて、事件の謎を追う。

という流れなんですが。

まず、読みやすい!
初期の翔田さんの作品には硬い文体と暗いトーンで読みづらいのも正直あるんですが、最近のものは本当に読みやすいですね。

で、翔田さんの作品世界が江戸時代~明治維新あたりで統一されているせいか、世界観にブレがない。
江戸時代の過酷な環境と素朴な人情だったり、維新後の動乱や不穏な動きの雰囲気が、描き慣れているなあと思います。

今回は、…そうですねえ、江戸末期から維新にかけて、日本が変わらないといけなかったことと、変えてはいけなかったことをキャラクタに語らせるそのバランスというか、近代日本というものの陰陽の読ませ方が上手いなあと思います。
急激な変革の波に乗る人と置いていかれる人の悲哀や、現在のわたし達の中にもある日本人であることの大切さ。

ストーリーの事件の真相とは別に、そういう根底にあるテーマが重低音で響いている感じで、つくづくこの時代に生まれなくてよかったなあと思った(苦笑)
いや、上流階級に生まれるならともかく(それはそれで大変だっただろうけど)、庶民が江戸から東京と名前を変えられ生活スタイルすべてを変えられ暦や時間や単位もすべて西洋式に変えられそして西洋社会からは蔑まれ、こんな時代で日本人として頑張ることは平均寿命が縮んだのではないかと。

日本でこんなパラダイムシフトは、あとは第二次大戦後くらい?
江戸時代までの日本人は、意識にも社会にも断絶がなかったから、変化もゆるやかだったんですよね。
博覧会で、東次郎くんが、ある展示物に関して激高するシーンの、東次郎くんの怒りのセリフ。(228ページ)
これは、今のわたし達、特に昨年の震災後の日本人で耳が痛くない人が居るだろうかってくらい、ずしりときました。
長い歴史の中で、日本の為政者と被支配階級である庶民との間に、こんな不文律があったこと、目が覚めるようでした…。
実際、明治時代には、東次郎くんのように怒りで震える拳をぎゅっと握って静かに涙した日本人は多かったんじゃないのかな…。
新しい時代を誰もが望んでいたわけではなかったこと、変わらざるを得ない世界情勢だったとしても棄ててはいけないたくさんのものがあったということ。

しみじみ考えてしまいました。

さて、事件の真相の方なんですが…。
じーつーはー、犯人途中でわかっちった☆
伏線というにはあまりにも分かりやすすぎて、たぶん犯人が誰かということに関しては、頑張って隠すつもりはなかったのかもしれないですね。
むしろ事件に至るまでの、黒幕の動向や「うしろめたいこと」の真相の方を、最後まで隠し通した感じがします。
なので、犯人が誰かはわりとすぐに見当つきます(苦笑)
「ファントム」が謎のツートップのもう一方だったからねえ。むしろそっちに感心した。
ああでも、悪くないですよ、むしろパズラーと言っていいほど、中盤の聴き取り調査のシーンや辻褄の合わないところを挙げていくシーンなんて、きっちり本格ミステリです。
なので、楽しく一気読みでした♪
関係者一人ひとりに聴き込みしてるときの、イギリス・フランス・ドイツ・アメリカから見た日本と日本人。
髷を切り洋装にして時代に乗り遅れまいと背伸びする日本人と、武家社会の伝統を語り継ごうとする日本人と。
キャラクタのすべてに重要なセリフを割り振って、社会情勢と事件の伏線のバランスを取ってるなあ、と思いました。

東次郎くんの涙、ベアトさんの涙、日本人の涙。
愛惜と悔恨とに揉まれた感情。
日本が独立国として開国できた奇跡と、焦りや裏切りや狡猾さで国を動かす為政者の危うさと。
いつの世も踏みにじられ省みられることのない庶民の生活と心。
それでも日本を守ろうとするアイデンティティを、とあるキャラクタのように冷笑する気にはなれません。

同じく翔田さんの『消えた山高帽子』(創元推理文庫)と『参議暗殺』(双葉文庫)あたりを既読のかたなら、時代がほぼ同じなのでするっと読めると思います。

相変わらず女性キャラが少ないですが(苦笑)その分、ヒロインとして、また存在感ありまくりの役どころとして、宝石のように描かれています。
女性には特につらい時代だったでしょうが、その分まで輝いた彼女達の存在に、マドンナ幻想を感じましたねえ(褒めてます)

激動の時代の中、市井の人たちの心を描いたミステリー。
面白かったですー。


(2012 講談社)



(おっと、わたしとしたことが、ネタばらしに繋がるキーワードを書いてしまったっ!)
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