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『奇面館の殺人』 綾辻行人 著

2012/03/06(火) 19:35:02 綾辻行人 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 えーと、館シリーズ前作の『暗黒館』から何年経ってるんでしたっけ…(苦笑)
 綾辻ファン、館シリーズのファンには待ちに待った新刊ですよ。
 申し訳ないことながら、わたしはシリーズを全部読んでなくて…正直なところ、サイン会ありきでしたねえ(爆)
 でも、発売されてから半月以上おあずけくらってる間に読了されたかたがたの(ネタばれしてない)レビューを拝見すると、シリーズ初期の頃の、軽快なパズラーとのこと。本格ミステリが好きならとにかく読んどけ、とか(笑)
 その評判にたがわぬ、楽しいパズラーでしたw





あの、“中村青司”が設計したという、「奇面館」。
謎の建築家・中村青司に関わるうちに…なんというかミイラ取りがミイラになったような側面が無きにしも非ずな感じなんですけど(苦笑)ミステリ作家の鹿谷門実さんが、その奇面館を訪れるチャンスを得て不思議な集まりに参加してみたらば。
案の定、凄惨な殺人事件が起こって、異様な状況のなか、推理を重ねて犯人を特定していく、本格の王道です。

最近、幻想寄り、怪奇寄りな作品の多い綾辻先生が、シリーズ初期のころのような「新本格」ミステリを、新作として発表されたのは、嬉しいし意義深いことだと思います。

えーとね。
ネタばらしはもちろんしないけれど。
あらすじすら書きたくないのですよ。
とにかく、一切の予備知識を持たないで、ただシンプルに素直に楽しむのが一番の読み方だと思います。

なので、キャラクタ造形についてとか。
トリックについてとか。
そういうこともできるだけ避けて。
ただ、読んでるときにどう思ったか、どう感じたか、それだけを書こうと。

仮面。
よく、素顔を偽る、隠す、そういう時に、仮面をかぶるっていいますけど。
この小説の「仮面(奇面)」は、ふたりの人物によっていくつもの意味を持たせてありました。
奇面館の主人と。
綾辻先生ご本人。
とくに、綾辻先生が意識されていたのは、わたし達読者の、ミステリ好きミステリ読みのクセを十分に理解して、そのクセを逆に活用したパーソナルデータのミスディレクションじゃないかなあ。
安楽椅子探偵で、あの銀仮面の探偵が謎解きをする解決編で、犯人の動きを全身黒タイツの黒子さんにさせているじゃないですか、あんな感じの。条件にそって犯人の動きだけをトレースすればいいので、仮面の下の正体は考えなくてよろしい、という。
もちろん、パーソナルデータにも意味はあるので、ただ読者がそれを思い出すタイミングを絶妙にずらされたっぽい…。

鹿谷さんが関係者を集めて謎解きをするシーン、これ。
どこかで、似たシーンがあった。
有栖川先生の、『乱鴉の島』です。
火村准教授が、あの孤島で、それほど多くない関係者を全部集めて真相を明らかにしていくあのシーンを思い出しました。
少しずつ条件が絞られていくうちに、真犯人はどんな気持ちだったか。名指しされたとき、どんな思いで崩れ去ったか。
その表情。
わたしは、その、描写のない表情を、火村先生に導かれて読み取ろうとしました。怒りや嗚咽や肩の震えに。

名探偵というポジションの火村准教授とアリスさんは、謎解きの装置としての役割で犯人たりえないという絶対の立場が崩れないのも、今回の鹿谷さんと同じ。探偵を疑わなくていいから安心して読める。

この『奇面館』では。
鹿谷さんを含め、半分以上が仮面をつけたままの一泊二日です。主人の前ではおなじく仮面をかぶるよう言いつけられていた館のお世話係さんたちは、八割がた素顔でいられたけど、だから容疑者ではないとは言い切れない。
主人公格の鹿谷さんも、部屋でのシーンはある程度素顔を許されていたけど、館内で誰かと一緒にいるシーンは全て仮面。
「仮面」も「素顔」も同等なんです。館の主人の宣言どおり。

鹿谷さんの怒涛の推理に次第に追い詰められていく犯人の心情を思うと、仮面の下ではどんなに冷や汗が流れ苦渋に満ちた表情をしているんだろう、とわたしたち読者は普通に思う。
ところが、綾辻先生はもしかしたら、犯人当てに挑戦する読者へのサービスで(笑)、最後の最後まで表情を読み取らせまいとされたんでしょうか。
フーダニットとして、どんな情も抱かせずにただ条件を絞り込んでいくエレガントさのためだけに、犯人のどんな動揺も徹底的に削ぎ落として無表情にしたら仮面になった感じ。
なんというか、奇面というより、能面に近い。見ようによっては、笑っているようにも泣いているようにも見える、能面。
面の下には、いろんな感情が渦巻いていて、いろんな表情が現れるものですが。
それを一切見せないで、パズラーに仕立てていくのは、いわゆる人間的な部分を切り離すという作業だと思うので大変だったんじゃないかとお察しするのですよ…。「人間が描けていない」という本格批判を逆手にとって、それすら伏線にした感じ。
それでいて、真相が全て明らかになったときの、仮面の意味とその反動(素顔)がね、やられたわーwww
潔いくらいの、フェアなパズラーで嬉しい愉しい!!

あと、館シリーズですからやっぱりトリックもね。凝ってます。
館全体が凝りに凝ってるので、トリックらしいトリックが逆に大人しめに思えたくらいでしたよ(苦笑)
でも、バカミスのような意味不明さはないし、トリックを含めた館の全ての要素が絶妙にブレンドされていて、中村青司ってやっぱり奇人変人なんかじゃなくてかなりバランス感覚のいい人だったんじゃないかなー、とシリーズを読むたびに思うのですが今回も思った。うん。

綾辻先生といい、有栖川先生といい、本格ミステリをずっと書き続けておられるかたの脳っていったいどうなってるんでしょうか。
なんというか、綾辻先生が、ブロック…じゃないな、艶のない軋んだような何か…たとえば、頁岩をキシキシと組み合わせて世界を組み立てておられるような、太古の地層をいったん壊してそのカケラを残さずに拾い集めてまたカンペキに地層に復元したような、そんなイメージでした。
…って、余計わかりにくいか(笑)

鹿谷さんの口調といい、展開そのものといい、綾辻先生がインタビューで仰っていた軽やかさが、本当に新本格第一世代の初期作品群を彷彿とさせる遊び心に満ち溢れたミステリでした。面白かった!


(2012.1 講談社ノベルス)
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