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『完全恋愛』 牧 薩次 著

2008/09/04(木) 08:03:34 牧薩次 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 あの大ベテラン先生が別名義で書き下ろした長編ミステリ。“牧 薩次”…ミステリ読みなら分かりますよね?結構な話題になりました。
 未読のかた、ネタバレや先入観NGというかたは、ここで引き返してくださいませ。



まずは一言。安心して読める、ミステリらしいミステリを読んだー!というほっとした満足感。
さすがです、牧 薩次先生、もとい、辻 真先先生♪

“牧 薩次”といえば、“スーパー&ポテト”のポテトさん。
今回は、後書きで辻先生も触れられていますが、切っても切り離せない関係であるポテトさん名義では処女長編ということで、辻先生が色んなジャンルのものを書いている横で三十年余りにわたってミステリ一本で生きてきたポテトさんの為の本格ミステリです。

…なんていって、実は私、“スーパー&ポテト”シリーズは未読なんです。というか、辻先生の作品をあまり読みこんではいない、なんともつまらない読者だったりして(一番最近読んだのが、ぶくおふで見つけた『デッド・ディテクティブ』なんですから…)
でも、この『完全恋愛』は、シリーズを読んでなくても十分楽しめます。むしろ、この作品をとっかかりにして、シリーズを最初から読みたくなってくる。
なんせポテトさんは終わりのほうでやっとちょろっと登場するだけだし、キリコさんにいたっては一瞬しか出てこない!じゃあ…ってことで、私も今度第一作から探してみようと思います。

この作品は、ミステリであり、恋愛小説でもあり、でも乖離することなくうまく溶け合っています。
帯に書いてある紹介文が一番わかりやすい。

<昭和20年……アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した>
<昭和43年……ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く>
<昭和62年……「彼」は同時に二ケ所に出現した>
<平成19年……そして、最後に名探偵が登場する>

ね?ミステリのお約束がいっぱい出てきます。
凶器の消失、凶器が時空を超える(ついでにこの事件には密室という要素も含まれる)、同じ日同じ時刻の二ケ所で目撃される人物、そしてアリバイ崩しトリックの解明をやってのける全く第三者の名探偵ポテトさん。
奇をてらった、度肝を抜かれるような驚天動地のミステリではなくて、ごくごくまっとうなミステリ。叙述でも倒叙でもなく、フーダニットとハウダニットとの融合です。

生意気なことを言うと、あまりにあからさま過ぎるのか、はたまた私もミステリ読みとして伏線拾いのコツが分かってきたのか、随所に「あ、これは…」という部分があってある程度は読めてしまうのです。その意味では物足りないのかもしれませんが、これはこれでいいのだと思います。

物語全体は、その中心人物である本庄究、雅号柳楽糺(なぎらただす)の生涯を幼年期から描いたものですが(この『完全恋愛』という作品は、最後の方で「一連の事件の謎が解けたら、柳楽糺/本庄究の自伝を書いてもらおう」と究が了承した、ミステリ作家牧 薩次の著書なのですから)、第二次大戦末期から戦後の混乱期に起こった事件から始まる謎を、究の狂おしい程の情念を軸に展開していて、その戦後の日本人の混乱と変容の描写は、この時代を生きた人でないと書けないリアリティに満ちています。そしてその混乱が、その後のあらゆる出来事の発端になるので、時代が進んでも忘れてはいけないのですね。

究が少年時代に一度だけ関係を持った女性、これが究の勘違いであることもすぐに気付くし(その直後の火災で焼け出されるシーン、従姉の体調の変化のタイミングがドンピシャですもん)、究が心底愛してやまなかった朋音が本当に想っていたのは誰か、マルバレですやん。
そしてこの時の事件、素行のすこぶる悪いアメリカ兵が殺された一件の、究が庇った相手とさらに究を庇った人間の、タイミングが良すぎるというか思い切りが良すぎるというか。今なら究が証拠隠滅、犯人隠匿で逮捕されてもおかしくない。
ミステリとしては目が粗いようにも思いますが、いいんです、戦後の混乱期ですから(笑)。

時代が進んで。
究と住み込みの弟子である魅惑は、亡き朋音忘れ形見である火菜を心配するあまりにMAKARIのレセプションの行われる沖縄へ行くが、その二人の目前で浅沼宏彦からの予告通りにおこってしまった殺人。被害者は予告どおり火菜だった。
現場は衆人環視の雪のかまくらの中。辺りに犯人のものらしき足跡も無く、使われた凶器は、殺人予告のテレビ中継で写された、宏彦の直筆サインの入ったナイフ。しかし、直前のその予告中継の中で自ら起こした雪崩によって自殺している宏彦の手にあったナイフがどうやって沖縄の火菜の胸を刺したのか。

この火菜の彼氏のマナとは誰のことか、見当はつきましたよ。ていうか、その人しかいないでしょ。
そして、密室状態での火菜の死。
これも、ある程度のミステリを読んでいれば、多分こういうトリックだろう、と思ったそのままだった(笑)。
ただ、究がどう関係していたのかまでは薄-くしか分かってなかったけど。

そして、真刈夕馬の死。究が同時に二ケ所にいたらしいという謎。
ここで、究の胸にあるハート型のアザが関係してくるのか。山岸医師と温泉に浸かっているシーンで、やけにクローズアップされるなあと思ったら。いきなりヒゲを伸ばしたり剃ったり、五十の歳になって運転免許を取ったり、思い立ってニュージーランドに一人旅してみたり、いろいろと画策してることはわかってたけど、肝心の夕馬の体内から検出された湖の水による溺死、という鑑定結果。これをクリアするのにまず、さやかの粗忽ぶりがあってそれが元で起こった一大事があって、さやかに負い目を持たせた上で登場させた婚約者が工務店勤めの建築士だなんて、ご都合主義だなあとも思うけど、やっぱりこれはこれでいいんです(苦笑)。ミステリですから。

どの事件も、時効もしくは事故死として処理されているので、たとえ警察関係者と魅惑が事件の真相に近づいていてアリバイは崩せないもののトリックはあらかた解けた、という展開になっても、犯人でありまたある事件の片棒を担いだ究が逮捕されることはない、というのも緊張感がないなあ、とは正直思います。
でも冒頭のシーンの「むーたん」「みィちゃん」がここに繋がるのかあ。

忘れちゃいけないのは、これは恋愛小説でもあるということ。究の一途過ぎるほどの想いが、どういった風に昇華されるのかというのもまた大事な軸なんです。
そしてラストシーン、究の最期の時に駆けつけた魅惑の母が、そっかー、彼女だったのかー!そういや同じ名前だわ。うわあ、これには気がつかなかったよー。うかーつ!
(いえ多分、私がうっかり者なだけです。他のかたはすぐに気がつかれたはず)

けれども、究の最後に交わした会話で、おそらく自分の長年の勘違いと魅惑の存在の意味と朋音への変わらぬ愛情にようやく気がついたのか、と知ってなんとなく一安心。

それなら、何故魅惑があれほど究の傍にいられたのか、納得です。
これが一番のサプライズかな。

久しぶりに、安定感のあるミステリを読んだなあって感じです。
楽しかった。

(2008.03.04)
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