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『髑髏城の花嫁』 田中芳樹 著

2012/01/11(水) 15:46:06 田中芳樹 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 『月蝕島の魔物』に続く、ヴィクトリアン・ホラー・アドベンチャーシリーズの第二弾です。
 前作発表(理論社版)からかなり時間が経ってるので、東京創元社版の『月蝕島』を読んで(再読というかたちですね)てよかったw
 えーと、今回、激しくネタばらしします。でないと感想書けないんですもん。
 なので、未読のかたは、途中まで、ここまでというところで引き返してくださいね。







わたしのクセというか、まずネタばらししてますよーというギリギリのところまでは、あとがきや解説を先に読むんですが。
この田中先生のあとがき、いいなあwww
でも、体調崩されたのはTwitterでマネージメントのかたの情報で知ってましたが、そんなにお悪かったとは……!
くれぐれもお大事になさってください。

それと、参考文献の凄まじい量も相変わらず。
だから、日本人は専門的に勉強しないかぎりは言葉しか知らない「十字軍」とか、前作につづきクリミア戦争の描写とか。フィクションとは分かってても、うわあ…って思いました。田中作品では、珍しいよね、こういうの。未来だったり、田中先生が生み出した世界だったりする作品が多い中、わたし達が生きる世界に繋がる歴史の中の物語。

ヴィクトリアンですから、舞台はイギリス。十九世紀。『月蝕島』の出来事から数か月しか経ってません(笑)
ホラーということで、怪異な展開。ジャパニーズホラーの古井戸の底から長い髪の何かが這って出てくるような薄気味悪いのではなくて、はっきりと人外、異形の存在。
アドベンチャーですからもう、ニーダム君とメープル嬢(知らないかたのために書きますが、叔父と姪です)はやっぱり怪物に追い掛け回されて絶体絶命の大ピンチ。

で、その追い掛け回す怪物さんたちですが。
前作の『月蝕島』の美貌の男性は、普通に性格がひん曲がってた程度でしたが。
今回の美貌の男性は、既に人間の常識が通じません(爆)
ていうか、人間の理が通用しません…。

クリミア戦争で勇敢に戦ったニーダム君にも、気が触れそうなほどの地獄があったこととか。
戦友で恩義もある友達の調子のよさに苦笑したりとか。
メープル嬢の出来すぎなくらいに機転の利く活躍。
ナイチンゲールさんまで出てきてびっくり。

ニーダム君の、勇敢な戦士としての闘いぶりも相変わらずですが、今回はさすがに一人じゃ無理。
かろうじて生きてた味方と総力戦で、それでも最終的に幕を引いたのは、謎の美女。

ところで、田中先生が周囲の人たちに教えたというトリビアをひとつ。
「髑髏」って、この漢字。これ、切り離して単体では使われない漢字なんですって。「髑」と「髏」は「髑髏」という言葉しか作れないんですって。へええええ(知らなかった人はボタン押しましょうw)
ヴァイキング、東ローマ(ビザンチン)帝国、十字軍、……そしてクリミア戦争、スコットランドヤードが出来て間もないころのイギリス社会。
世界史、西洋史が苦手な人はくらくらするかな(苦笑)
でも楽しいよー♪
イギリスの警視庁がなんで「スコットランド・ヤード」と呼ばれるのかも分かるよー♪♪
この、現実の世界史の中に、田中先生が拵えた架空の一族と、髑髏城。
巻き込まれたニーダム君やメープル嬢には悪いけど、すこしだけ、伯爵様の煮詰まった狂気のなかに潜む悲しみ、買収されかけた彼のやるせない怒り、そういうものを感じて同情した。ちょびっとだけですよ。

今、日本は世界でもトップクラスの長寿国で、確か数年後には百歳以上のお年寄りが一気に増えるんですってね。
幸せな長寿ならいい。
でも、生きる目的も意欲も削がれ、国からも世界からも忘れられるほどの時間を生き続けるのは、どれほどの悲しさとつらさだろう。
人外の生き物が始まりだったのか、人間だったものが異形になってしまったのか、この怪異は、恐ろしいけれどどこか哀れを感じる、そんな時間の狂い方でした。


さて。
ここより先に、ちょっとだけネタばらし。
未読のかたは、ここで回れ右してくださいませ。






えーとえーと。
わたし、この「髑髏城の花嫁」っていうタイトルで、ああこりゃメープル嬢が花嫁姿にされるのかなあ、と想像してたんですが。
やーらーれーたー!
リラ様かー!
でもって、クライマックスまで読んで、冒頭の一章を思い出してびっくり。このプロローグの黒衣の女性がリラ様だったのね…言葉遣いが違ってたから分からんかった…。そしてその直後の、時代を経た年配ニーダム氏の記述によると、この出来事から七百年経って髑髏城のことを記録してるのよね?

………ええとリラ様もしかして千年以上生きてらっしゃる……?ひいぃぃぃぃ(脱兎)

神様にもなれず、儚い命のちっぽけな人間にもなれず、ただ悠久に近いときをただ息を潜めて静かに暮らすというのは、いったいどれくらいの地獄なんでしょう…。

リラ様が、ながいながい時間のなかで、幸せを感じたことはあったのかなあ。
リラ様の花嫁姿の肖像画の、あの表情が忘れられない。挿画の後藤さんも、リラ様のかなしみを感じ取って描かれたんだろうなあと思う。

ロマノフ家やハプスブルグ家を「成り上がりの田舎貴族」と言うくらいには、とんでもない旧い系図のこの一族。
この設定が、地上の人間にはとうてい敵わないリラ様の本質やライオネル君のネジの吹っ飛び方を生み出したんですね。

凡人で、平穏に平凡に生きていられるのが一番です。はい。


(2011 東京創元社)
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