こんな本読みました。

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『緑ヶ丘小学校大運動会』 森谷明子 著

2011/09/07(水) 19:32:46 森谷明子 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 わたし、森谷明子さんという作家さんは、平安時代絵巻本格ミステリの方が合ってると個人的には思うのです(紫式部のシリーズや『七姫幻想』他)。人気と評価の高い連作短編集『れんげ野原のまんなかで』も確かに悪くないけど平安時代モノに比べると印象は少し薄い。現代モノはなんとなく、謎とその解明部分が全体的な雰囲気から少し浮いてる感じ。偉そうなこと言ってごめんなさいですが、正直な感想。
 ところがっ!この新作はお見事!!なんと面白くてよく纏まってることか。
 フーダニットやハウダニットじゃなく…なんというか、何が起こってるのかという見当はあっさり分かるけれど、いろいろな手掛かりと物語の展開のペースがばっちりかみ合っててぐいぐい読んでしまう。リーダビリティに優れた作品でした。お薦めw



さてさて、ネタばらしせずに頑張って書くぞー。

…難しいな…(苦笑)

さっきも書きましたが、小学校の運動会の裏側で何が起こってるのか、は分かります。隠してないし。
いやその引っ張り方が見事なんです。

子ども達なりに機転をきかして、証拠の隠し場所に奔走したり、運動会をひっぱったりしながら、プログラムはタイムリミットの役割になっていきます。

で、小学校の運動会に保護者が大挙して押し寄せてるなかの、キナ臭い犯罪の影を掴もうということなので、保護者が探偵役だと思うでしょ。
ところが、中盤まで推理らしい推理をしていくのは、マサルをはじめとする小学六年生の面々。まっすぐで大らかなイッキやミステリーの読みすぎではあるけど確かに頭脳的役割のヒロシや女子力抜群のハルカ(笑)にしっかりもののカオルやミチコ、良くも悪くも口の達者なアヤ…。みんな、下の名前で呼び合うほど仲がいい。
じーつーはー、これもうまく機能してるのよねえ。
当然この子達の親も運動会に来てるけど、保護者のパートは苗字なんですよ、だから誰がどの子の親で一斉送信しあってるガードゆるゆるのママ達の誰がどの苗字なのかとか、結びつけて読んでいくのはまるでパズルのようです。
子ども達とマサルの親父さんが合流してからは、推理はもっぱら親父さんの方ですが。職業柄という意味でも。

そうなんですよ、作者の森谷さんは、子ども達も大人達も、実にうまく動かしているんです。
紐の付いたふよふよというか、計算されたランダムさ。
こういうところは、ガチ本格ミステリの手法です。さすが。 

子ども達の楽しみとしての運動会と、親の学校行事の捉えかたの違いというか温度差がこの「事件」を生み出したんですが。

終盤で少しずつ明かされる裏側は、ヒヤリとする冷たさとヌルヌルするエゴと。
それが、うーん…玉ねぎの皮を剥くように、というか、マトリョーシカみたいなイメージ。
ひとつ真相が暴かれるとその中にくるまれた別の思惑があってまたその中に…。

利己主義の極みが幾重にも重なってはいますが、エグさの寸前で留めた、そんな感じ。

この作品は、「家族のありかた」がテーマでもあります。
小路さんの『東京バンドワゴン』をはじめとする多くの作品も「家族」を描いていますが、小路作品は陽性。風通しがよく一度は壊れたとしても再構築・再出発の希望がある。
対してこの森谷さんの新作は、いわゆる「イマドキの」「どこにでもあるありふれた」家族ばかりですが、ともかくみんなが、世間体を気にして顔色を窺って仲間はずれになりたくなくて親の言う事に反感を覚えるお年頃で…。
こんな家族だったらいいなーと思える小路作品とは正反対ですが、だからって嫌いにもなれない面倒くさい家族。
最後に出てくる家族はさすがに事件を影から動かしてた人物の家だけあって、おいおいおい~~…と思わなくもなかったんですが、梢ちゃんの件で元々根っから悪い人じゃなんだな、と。

マサルやイッキや他の子ども達もみんな、いろいろ揺れてます。
親のことをしっかり見てて、子どもなりに許して、好きな子に自分なりにアピールして、自己を確立していく成長期。
大人は大人で、子どもの顔色を見て、親や年寄りの顔色を見て、世間に迎合して、それでもやっぱり家族は大切で。

お弁当の中身を見なくても分かってた、それでも何一つ不満を言わずに食べるマサルと、父子家庭のプレッシャーでいっぱいいっぱいになってて息子がどれくらい成長してるのかをなかなか気付けないでいた親父さん(真樹夫さん)。
でもきっと、親父さんの職業人としての大きさを知ることになったんでしょうね、マサルくんも。

まだまだこれからの親子、ボタンをふたつみっつ掛け違ってて感情的にこんがらがってるけどちゃんと思い遣る親子、あまりにも短絡的だけど信じあう気持ちは天下一品の家族…。

子ども達のなかに、保護者のなかに、先生のなかにもレッドヘリングというかミスリード的な描写の人がいますが、その読み方は明らかにミステリ脳のなせるわざで(笑)、登場人物を片っ端から疑ってかかるのですなあ。

300ページを超える、決して薄い本ではないんですがそんな厚さを感じさせないリーダビリテイで、かつムダなところのまったくない、よく練られたミステリーだと思います。


運動会って、いろんな家庭のニオイを間近で見ることができる場でしたよね…お弁当とかレジャーシートにカメラとか、親がどれくらい子どもにかこつけて…もとい子どものために親はできるだけ愛情を示そうと頑張る。

今の学校の運動会って、この本のように、あれはダメこれもダメ不公平とか可哀想とかの理由をつけて規制を強くするんですか?
なんか楽しくないねえ。
でもマサルくんやイッキくんやヒロシくんや、ハルカちゃんカオリちゃん他みんな、わたし達が子ども時代のもっと大らかな運動会のことを知らない子ども達には、規制を規制と言わずその中でなんとかして楽しもうとするでしょう。
なので、わたし達大人は、自分の記憶は脇に置いて、今の運動会やPTAや学校の苦労やそういうのを一緒に勉強することにしましょう。


(2011年 双葉社)
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