こんな本読みました。

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『高く遠く空へ歌ううた』 小路幸也 著

2008/09/03(水) 11:24:51 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 昨年、小路さんの作品に出会って、感激した私はすぐに既刊全てを大人買いして、その時にこの作品も単行本で入手出来たので、読みました。
 そしてめでたく文庫化されたのを機に再読。
 また、講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』に、文庫化にあたっての小路さんの「もうひとつのあとがき」が掲載されていて、それを頭に入れて読み返しました。
 未読のかた、ネタバレがダメなかたは、これより先にはお進みになりませんよう。



小路さんのデビュー作であり、シリーズ前作の『空を見上げる古い歌を口ずさむ』もそうでしたが、子ども達が本当にいい子ばかりで、なんて温かい世界に住んでいるんだろう、と思わず羨ましくなってしまいます。
前作では“のっぺらぼうが見えてしまう”男の子、で、今回は“死体を見つけてしまう”男の子(と、“人間には聞こえない音が聴こえる男の子”)。
義眼になることを冷静に受け止める事の出来る人って、大人でもなかなかいないのに、自分の容姿も含めてある意味無関心でいる子どもなんて多分、普通は嫌われるタイプだと思う(『銀英伝』のオーベルシュタインなんてまさにそう!義眼で感情が欠落してて。やっぱり帝国での嫌われ者だった(笑))。でも、この子“ギーガン”(早川康哉)のまわりには、自然と人が集まってくる。そして、皆がギーガンを好きになる。本人が自覚していないその整った容姿だけじゃなくて、感情が一切表情に出ないことは子どもながらに人間としての品性がカバーしてるのかな。
また、ルーピーの一途さがもうたまりませんvv康哉がギーガンと呼ばれる原因を作ってしまった自責の念から始まったとしても、一生をギーガンの左眼になって生きていく決心を秘めて、犬笛をギーガンに託してでも傍に居ようとする真っ直ぐな心は、私のようなスレた人間には持ち得ないものです。

また、彼らを見守る先輩の柊さんも、優しいだけじゃなくて、引くところは引いて、言うべき事はちゃんと言える、見た目以上に大人な少年で(…まだ少年っていう年頃ですよね?青年じゃないよね)、なんだかギーガンのお父さんが乗り移ったかのような感じです。今まで誰にも言わなかったことを、柊さんには全部話してしまうのも、ギーガンが頼りになる先輩としてよりももっと大きな信頼を寄せたからだし。柊さんの友達の林さん達もいいなあ。もっと活躍して欲しかったくらい。

前作と違うのは、のっぺらぼうを見てしまい自覚してからは<稀人>として生きざるを得なかった恭一さんの語り口の為に、人外のイメージがあった<解す者>や<違い者>の存在が、例えばギーガンのお父さんがそうであったように、普通の人間に混じって生活している様子が出てきて薄められていることですね。

勿論、物語の終盤での真理子先生の自殺や橋崎神父の告白に、ベイサン(=前作のベイジィですよね?)やユウイチさんやその傍の男の子の哀しいけれど強い心に、<違い者>と<解す者>の際立った存在感はありますが、それよりも、ギーガンの感情の解放・放出やルーピーの前進や、柊さんの大きな人間性に、より惹きつけられます。

また、ケイトや誠君や、イレギューラズとそのライバルチームまで、本当にいい子たちばかりで、でも、やっぱり子どもらしくて、読んでいて嬉しいしほっとするしこんな子欲しいし(笑)。少年探偵団のようなことをしていても、分からないことを無理に分かろうとはしないところが、すごくいいです。(……どうしても、某作と比べてしまう私…)

小学校高学年から中学生くらいの子たちに是非読んで欲しい。
高校生だともう、取りこぼしてしまうかもしれない、未来への希望というか光が、多分一番染み渡る年頃だと思うから。
そして、自分が見えているもの聴こえているものが本当なのか真実なのか、この作品を読んでもう一度考えてほしい。世界は一つだけどひとつじゃなくて、人間の数だけあるってことを知ってほしい。

小路さんの既刊をほぼ全部読んでいるので(雑誌連載分は追いかけられなかったものも…)、改めて今読むと何だか色んなリンクがあるような気がします。

子ども達だけで宝物の在り処だと聞いた所に行って、そこで出会った男性は、『キサトア』に出てくる“水のエキスパート”かな?『キサトア』の方が後の作品ですが、小路さんの構想にはこの頃から“自然に向き合うエキスパート”というキャラクタがあったのでしょうか。

また、ギーガンが真理子先生と並んで歌う場面と、真理子先生がライブハウスで歌ったという《オーバー・ザ・レインボウ》という表記。今、【青春と読書】で連載中の『オーヴァー・ザ・レインボゥ』とは、どんな違いがあるのでしょう。

ギーガンの名字である「早川」や、田村先生の実家の大家族に出てきた「裕輝」ちゃん、って、他の作品でも同じ名前の登場人物がいますけど、別人ですよね?全部リンクしてたら、ややこしいですよう。まあ、『シー・ラブズ・ユー』に『Q.O.L』の彼がゲスト出演したように、あり得なくは無いんですけど。

積読がとんでもないことになってて尚図書館でも借りて来てるのに、それらを全部ほっぽりだしてでも小路さんの作品全部を再読しようかなと思う、不思議な吸引力のある小路さんの世界。
まだ読んだことの無いかたにも、是非手にとってほしいなあと思います。


(2008.02.19)
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