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『悪女パズル』パトリック・クェンティン著

2010/05/26(水) 18:24:07 パトリック・クェンティン THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 おおおブラボーブラボー!!まさしく「パズル」にふさわしい作品!クライマックスでの謎解きシーン、あまりの興奮に汗かいたよw
 この文庫解説によると(以前に『死を招く航海』を読んでたはずなのに覚えてなかったのが情けないけど)、パトリック・クェンティンというのはパズラーの巨星エラリー・クイーンよりも複雑なハウスネームのようで、ひとくちに合作と言ってもその組み合わせがスライドしてる。そしてこの作品を含む「パズルシリーズ」は第二期にあたるそうで、『死を招く航海』とは合作者がひとり違ってるらしい。そのテイストがはっきりと感じられて、なんていうか同じ著者名でも二度楽しいというか。
 サスペンスと謎解きが美しく融合した良い例だとおもいます。ミステリーがお好きなかたは是非読んでみてください。




概要文にも書いたけど、本当に楽しいミステリでした!
犯人当てとかトリック崩しというミステリの部分と、緊迫するサスペンスがうまく組み合わさっていて、ちっとも退屈しない。
謎解きを得意とする片割れと、サスペンスを得意とするもうひとりが、それぞれの持ち場で最大限に筆をふるってるのがよくわかる。

表紙カバーの裏に簡単なあらすじがあるので、その部分だけをざっくりご紹介しますと。
要は、大金持ちの女性が退屈凌ぎに離婚寸前の友達夫婦を自分ちに招待して自分のアイデアで仲直りさせてやろうじゃないの♪というアホな発案をしたのが始まり。
呼び寄せられたのは、いずれもほんまに離婚した方がぜったいいいよ…とうんざりするような亭主や女房ばかり。そんな中で、一緒に(ついでに?)招かれたピーターとアイリスのダルース大尉夫妻。2人がそれぞれに事態の推移を見守っているうちに、三組の夫婦のうち1人また1人と命を落としていく……。

ということで、章立ては、それぞれの奥さんの名前になってます。つまり。狙われるのは何故か必ず妻のほう。
なまじ3人の夫の側に、嫁を殺しかねない動機がありすぎるだけに、連続する事件が事故か事件かもはっきりしなければ繋がりも見えてこないという状況。

公にはしたくない秘密、隠された過去、まるでどこかの乱痴気騒ぎのように繋がっているAの夫とBの妻……。

そういう人間関係が少しずつ明るみに出るのは、3人目の被害者が出てからですね。それでまは有耶無耶にしてしまうこともできるほど事件というには不確か。

その、次に誰が狙われるんだろう、胡散臭すぎるダンナたちや嫁たちの誰と誰が繋がってるんだろう、部屋を荒らしたのは誰?というサスペンスの盛り上がり具合が上手いというか。
でもこれはきっと、ホステスというにはとんでもなく能天気で軽薄で気紛れな大金持ちの女主人・ロレーヌの言動が煙幕になってて、このはた迷惑な女性のせいで動機も秘密も隠されているからでしょうね。とにかくキャラの立ち位置の書き分けが上手い。
登場人物の一覧に、ダルース夫妻は本書の探偵役である、といきなり明記されているので彼らふたりを疑うことができないのがダルース夫婦探偵シリーズの弱いところかな。それでもこの状況下ではアイリスでさえ危険ということには変わりないので、ま、いいかな。

さっきも書いたように、ロレーヌの、絶対に知り合いになりたくないよ堪忍して!という性格やふるまいが、真犯人も動機も、うまく隠してます。
そのぶん、クライマックスに明かされる真相は鮮やか!
小道具の見せ方、伏線も見事に回収されてます。
このあたりは、パズルという言葉が確かにぴったりですね。
事件の基本的なパターンでいえば、有名すぎるほど有名な、ミステリーをそれほど知らなくてもタイトルくらいは知ってるほどメジャーです。
でもそんなこととは関係なく、いいよこれ!
真犯人は確かにわりとマークは緩めの人物だったので、あーそうきたか!という感じですが、瞠目したのがその冷酷さ、事件の転がし方。弱みを握る能力、人を自在に操る最悪の意味での才能を、著者がこれほど見事に隠していたのにはびっくりです。
複雑に絡み合った思惑を、こうも上手に隠されていては、たとえ途中で犯人が分かったとしてもその永久凍土の氷のような冷たい感触にまでは至らないとおもいます。

ジクソーパズルで枠の四辺と分かりやすい部分を先に作って、完成図を見ながらそれらしい場所に配置していく作業、それをピーターとアイリスのふたりで。
特徴のある絵柄の部分のブロックを所定の位置に固定するために周囲のピースを区分けしつつ肉付けする作業はピーター。
最後の数ピースをカチッカチッと嵌めて完成させたのが妻のアイリス。
てことで、一番オイシイというか冴えてる探偵は嫁のアイリスですね。

これはおそらく、タイトルの「悪女」、被害者が全員女性という事件、そして手に負えなくなったところでやっと呼ばれたクレイグ警部が女性に偏見を持ってる人物というシチュエーションに対するアイロニー、良くも悪くも女性は怖い(苦笑)ということなんでしょうね。アイロニーといえば、ラストシーンのオチがもう!

ホステスたるロレーヌにしてからがだんだんとある人物に敵意を剥き出しにしていくほど険悪な雰囲気の中にあって、ダルース夫妻の仲のよさは確かに一服の清涼剤でした。

ただ、解説を読んでいくと、なんですかこの作品は「パズル」シリーズの第4作目になるんですがシリーズ1作目からここまでは出会いといい事件での活躍といい順風満帆なのに、この後かなりヘヴィーな展開になるみたいで。おおう。
……でもまあ、わかる気がする。
ダンナのピーター氏って、結構女性に惚れやすいタイプなんじゃないのかとおもったもん。序盤のシーンで。
普通、既婚者だったらさー、嘘でも「好感をもつ」でしょう。「好意をもつ」とは言わないって。
これは嫁のアイリスの勝気さと機転の利く頭脳を賞賛していればいい夫婦でいられるけど、この才能(ハリウッドの超有名女優という立場も含めて)をいったん妬みだすと途端に崩壊してもおかしくないです。

シリーズ物にしてはめずらしく、探偵役の背景が変化していくというのは、これも一種のサスペンス調になるのかな。

しまったなあ、もっと早くに読んどくべきだった!
とにかくこれから、創元推理文庫のリストをネットで調べてみるけど、もし絶版してるとしたら、このシリーズで61年に邦訳された『俳優パズル』と『わが子は殺人者』の復刊希望をアンケート時に記入しとけばよかったなあ……。
まだありますように~~☆☆


(扶桑社ミステリー文庫)
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