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『理由あって冬に出る』 似鳥 鶏 著

2008/09/03(水) 11:09:26 似鳥 鶏 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 第十六回鮎川哲也賞に佳作入選した作品。著者はこれがデビュー作となります。
 デビュー作でこれだけ書けるならすごいです。次の作品が楽しみな作家さんがまた一人増えました。
 重たい内容ではありませんが、ミステリはミステリ。ネタバレしてますので、未読のかたは、ここより先にはお進みになりませんよう。


とある丘の上に建っている某市立高校に通う葉山。全く使途不明に建てられた芸術棟の一角、美術部に籍を置く葉山のまわりには、愉快な文科部の生徒がわんさか。ある日、吹奏楽部の秋野麻衣に請われて怪奇現象の真偽を確かめることになった葉山は、彼の友人で麻衣狙いの三野、吹奏楽部部長の高島と共に夜の芸術棟に忍び込む。その噂をありえないと切って捨てる高島部長と半信半疑の葉山はしかし、噂通りにフルートを吹く幽霊の影を見た!噂はあっという間に広まり、それを聞きつけた文芸部部長の伊神が葉山のアトリエに入り浸って、受験生にもかかわらず謎を解こうと乗り出す。助手というのか、ありていに言えば使いっぱしりに使われる葉山と、演劇部部長の柳瀬、麻衣とその彼氏の東、そして変人の伊神。にわか探偵団のごとく、幽霊と壁男の謎に挑む。

最初は変わった文体だと思いました。やたら一文が長かったり、ぶちぶちと細切れの分が続いたり。擬音とかオノマトペとか、放送部のアレとか。いやー懐かしいなあ。長いのに軽いタッチです。
でも、葉山君の一人称で語られるこのペースが、だんだんと馴染んでくると、彼の思考回路、というか、内面のありようがよくわかるようになるんです。彼が目の前の人物や、見たこと聞いたことをどう捉えているか、まあ一人称というのはそういうものですが、葉山君がかなりよく考えていることが気持ちいい。伊神先輩という変人を前にして、心の中で突っ込んだり実際に口に出して突っ込んでいたりするのが、葉山君の人の良さをよく表しているなあと。

そう、そして、探偵役の伊神部長。……この名前に何度『江神さーん』と読み間違えたか(笑)。まさか作者がそれを狙っていたわけではないでしょうが(…まさかね)。
この伊神さんという人は、まさにアームチェアディテクティヴの典型かと思いきや、夜の校舎に忍び込んだり冬の風に吹かれっぱなしの教室で色々と立ち回ったり、いや面白い人です。喫茶店に入ってもコーヒーを注文するわけじゃなし、なのに隣の葉山君のコーヒーを無断で飲んだ上これまた無断で砂糖をどばっと入れ、後でコーヒーを新たに注文する。
謎が解けそうな感じになると一切の動きを止めて人形になってしまい、後輩に迷惑を掛けたのに、ゴ×××のちぎれた足を見つけて拾い上げ後輩に投げ渡す(ひえぇやだよお)暴挙の後、「気が散るから帰れ」と追い払った後輩を夜の十一時に呼びつけようとする。あんた受験は?
常識とか非常識とかを飛び越えてます。
花束の件の人の悪さもあったりして。当事者は恥ずかしいぞこれ。

他にも演劇部部長の柳瀬さんとか、キャラの立ったのがいっぱいで、それだけでも青春ミステリとして十分です。
が、作者はプロローグと中盤に訳のわからないシーンを挟んでいて、それをこの幽霊騒ぎと絡めたあたり、ただ軽い明るい青春ものではなくて、重しのようなしこりのような引っかかりを持たせたかったのかな、と。
また、幽霊話と壁男の怪談を別々に切り離して種明かしする。幽霊話のほうは、なーんとなく想像できました。真相を知っていそうな高島部長や美術部顧問の口の重さとか。
で、壁男の怪も、よくあるトリックネタでさして珍しくもないものですが、その現象を作り出した彼の思惑が、最後の一歩手前でやっとプロローグと幕間に繋がる。その時に彼を説得した伊神さんが、ものすごく常識的で真っ当なことを言うので、かえってびっくりしてしまいましたよ(笑)。葉山君のセリフももっともだわ。いやー、伊神さん、いい人だー♪カッコイイじゃないですかv

ところが、プロローグが終わってすぐ始めのほうで、葉山君が学校紹介をしているのですが、そこで描いてあったとあるシーンが一応の解決をみても出てこない。あれ?と思っていたら、なんと壁男は……!
ああ、こういうオチをつけたのか。現実的にはかなり無理があるけれど、まあミステリにはちょくちょく出てくる仕掛けだし、葉山君の言う“臭い”はダブルミーニングだったのね。ほおお。

文庫書き下ろしで薄いことも手伝って、すらすらさくっと読めました。そのかわり、文字数は多いですが(笑)。
鮎川賞に応募したのは結構無駄が多かったそうで、かなり改定したのでしょうか、それほど冗長な感じもしなかった。
かといって日常の謎系というわけでもないので、青春ミステリとしては上出来だと思います。是非この続編とかスピンオフを読んでみたい。これだけ使えるキャラクターがいるんだからさ。

最後に、作者の似鳥鶏さんって、お若いんですね。まだ二十代だ。
あとがきでの自己紹介はなんだか、葉山君のような印象もありますが、愉快なかたのようで大笑いしながら読みましたよ。
そして、こういった私よりも数段若いかたの作品を、じぇねれーしょんぎゃっぷを感じることなく読めた自分がなんだか嬉しかった……(笑)と、ほっとしております。

(2008.01.24)
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