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『エデン』 近藤史恵 著

2010/05/01(土) 11:31:46 近藤史恵 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 カバー写真を見れば一目瞭然ですね、あの名作『サクリファイス』の続編です!
 そして、著者の近藤先生ご自身がツイートで呟かれたように、これはもうミステリーじゃないです。ツール・ド・フランスのための小説。ミステリーを期待すると肩透かしをくらうので、そのつもりでかかったほうが正解です。
 ツール・ド・フランスをはじめロードレースをよく知らないと書けない物語、逆にコレは、ツール・ド・フランスというものに興味はあるけど観戦の仕方が分からないというロード初心者にはこの上ない入門書になります。これ読んだら、すぐにCSか何かでレースを探すこと請け合いw





前作では、ミステリーらしく複雑な事件も絡まって、ラストは結構な衝撃を受けました。
反対にこの続編は、事件といえば事件でしょうが漏れ聞くところによると現実のツール・ド・フランスはこんなもんじゃないほどもっと黒いらしいので(笑)、逆にめっちゃ爽やかな読後感が残ります。

まず、なんと言っても主人公の白石誓くん。チカの成長が眩しい…!
肉体的なものもあるんでしょうけど、経験と実績を積んだ彼の、しなやかさがものすごく印象的でした。同時に、前作と変わらない、潔癖さも。
その前作で、チカ(ともう1人)の為に自らを投げ打ってまで彼らの背中を押してくれた、偉大なエースの影をずっと引きずりながら、チカはそれでも自分を信じてたたかっていました。
涙が出そうだった…。

そして、前作ではなんでこんなに欲が無いんだコイツは?と感じたチカの性格、実はチカもしっかり貪欲なんだとおもったら、俄然人間らしく感じて今回はすんなり感情に乗ることができた。
ヨーロッパの歴史や文化の中で、ただ1人遠い日本からやってきた、チカへの期待や友情、そして社会組織としての人種差別まで、いろんな経験をしながら、彼はたぶん、「アシストのスペシャリスト」を目指してるんだとおもう。自己分析でも体力的にもチームのエースには向いてない、けれども、アシストという天賦の才をおそらく自覚してるんだチカって。
エースとしてしか走れない人、アシストとしてしか走れない自分。
その割り切りが早かったのが、彼の強み。

今回は、フランスのプロチームに所属していたチカが、いきなりスポンサーの撤退とチームの解散を告げられるところから始まるんですが。

こういう話、どっかで見たよなあ……そう、F1ですよ。
同じやもん。
資金力がモノを言う世界で、チームやレーサーにどれだけスポンサーが付くかでほぼ全てが決まってしまう。なんだかなあ…。

そしてまた、レース戦略に戦術、経験、駆け引きや協力、そういうところも、やっぱり似てます。
どちらもヨーロッパのステイタススポーツですしね。
常に優勝候補と見なされるレーサーには華やかなスポットライトが当たり、なかなか芽の出ない人はたぶんその短いレーサーとしての人生の中で一度もポディウムには立てない。その光と影。焦燥感や嫉妬、一度掴んだ1位の座への未練や守り。これはどの世界でもそうだとおもいますが。

そんなわけで、スポンサーに振り回されチームの解散を告げられてそれでもレーサーとしてのモチベーションを保たなければならない辛さ、ヨーロッパの文化や社会の中で日本人がなにほどのものぞという偏見やレーサーたちの連帯感、日本とかつてのエースを思いながら孤独に闘うチカの姿は、私にはどうしても佐藤たっくんと被るのですよ(苦笑)

うーん、誰か、F1を舞台に、これくらいのレベルの小説書いてくれませんかー!←ハードル高すぎかな(笑)

それにしても、ミステリーの要素を期待はしてなかったはずなんですけど、やっぱりミステリ慣れどんでん返し慣れした私の脳みそは、途中で、ニコラとドニをブラックな目で見てしまいました★
自転車レースでわずかのミスで落車はよくあることなんでしょうけど、チカのエースであるミッコとニコラのライバルである有力候補たちがアクシデントに見舞われるシーン、私は「コレ、先頭逃げ切りを図る彼の裏工作ちゃうん?」と…。
ラストで彼らに土下座して謝りたくなりましたよ。

また、禁止薬物が蔓延しているらしいというあたりで、「ここでミッコがクスリに手を出してたらオモロイのになあ…」とか。人間失格かもしれん。

ミッコにはミッコの悩み・孤独があるし、チカ1人を信頼していくようになるのは日本人としてなんとなく嬉しかった。
プロのレーサーならいざしらず、観戦するだけのシロウトなので、闇に覆われた部分のことは詳しくは知らない気楽さで、チカの潔癖さや頑固さは共感できるものです。
そのチカだけを心のアシストとして頑張るミッコに、どうか総合優勝してほしいと応援する気持ちは、間違ってないよね?
そしてチカも、ミッコを、日本でのかつてのエースだった彼と重ね合わせて見てるとおもうから、もしミッコがレギュレーション違反なんかしてたらもう、自転車やめてもおかしくない。けど、チカの人を見る目はかなり養われたようで、たとえチームが解散ということになっても自分の将来を天秤にかけた葛藤があっても、最後までエースをアシストしていくと決心するだけのブレない強さに、ドロドロした舞台裏との対比の鮮やかさを感じました。

あ、もうひとつ。
終盤のニコラの告白にヤラレました!
ニコラとドニがどういう関係だったのか、自転車を始めたきっかけや、2人の実力、そういう話はそれまでにも出てきますけど、ニコラの真の狙いは、ねえ。エゴといえばエゴ、当然といえば当然の動機。
ミッコとチカのように、エースとアシストという関係性ではなかったところが、まあシビアなんですけど、ということは、チカという天才に近いアシストと巡り合えたミッコの強運、もしかしたらニコラが一番望むのは総合優勝という栄光よりもチカみたいな存在だと思えます。

自転車を始めた経緯には苦いものがあるにしても、若くしていきなり優勝候補の一角に躍り出るだけの才能と将来を見せ付けるニコラも。
ストイックに実績を積んで自分を信じて異国で頑張るミッコとチカも。
また、他のライバルたちも。

「エデン」に魅せられて逃げられなくて留まりたくてもがき続ける、ちっぽけでも眩しい人間の姿。
前作の「サクリファイス」の意味とのギャップがひときわ鮮やかな、爽やかな小説でした♪

(2010.3 新潮社)
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