こんな本読みました。

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『叫びと祈り』 梓崎 優 著

2010/04/01(木) 12:40:47 梓崎優 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 第五回ミステリーズ!新人賞受賞作を初めて読んだ直後から、もうこの本が出るのを、それはそれは楽しみにしていたのですよw
 そしてその期待は、裏切られませんでした!てか、期待以上♪
 新人離れしてるというか、なにこの才能!いや私は別に小説家を目指してるわけじゃないけど、ミステリ作家になりたいなりたいと日々精進していてそれでもなかなか芽が出なくてもがいてる人が読んだら、ぜったい嫉妬すると思います。ミステリとしてだけじゃなく、小説としても美しくて素晴らしい!
 今年イチオシの話題作です、ぜひ読んでみてくださいww



まず、新人賞受賞作の【砂漠を走る船の道】から始まって、
【白い巨人】(書き下ろし)
【凍れるルーシー】
【叫び】(書き下ろし)
【祈り】(書き下ろし)

見渡す限りのサハラ砂漠、スペインの紺碧の空の下、南ロシアの修道院、南米の熱帯雨林、そして……。

まず素晴らしいのは、その情景の描写!

特にサハラ砂漠は、昔その北東あたりの端っこを、たしっと踏んだだけの経験しかありませんが、それでもこの海のような砂の大地、熱風、死の危険、ラクダの眼……どれもこれも、そのままです。すごいです。
水も食料も持たないのはもちろん自殺行為ですが、なにより、道標になるようなものがなにもない砂漠のただ中を、長年の勘と経験を元に前進するキャラバンの、究極の選択。

スペインのじりじりと焼け付く暑い夏、陽炎のような辛い思い出、その記憶に絡み付く青い空と黄色い大地。
絵画のように、目を奪われる風景。ランドマークの風車。

南ロシア。厳しい規律を守って慎ましく生きる修道女たち。
祈りの姿、願い事。
ランプの光も、話し声さえ最低限に抑えた、静謐な空間。
俗世間から切り離されているからこそ、余計に浮き彫りになる人のこころ。その全てを見ている、真っ黒な夜空。

熱帯雨林の押し寄せる圧迫感と、その生命の濃密さ。
先住民独特の社会と文化。ズカズカと土足で踏み込もうとする文明社会の人間とのギャップが怖かった。ジャングルの中では、明らかに森は彼らの味方で。部外者は人間じゃない。
ジャングルに寄り添うように生きる彼らに、私たちはどう映るのか。医師なのに彼らから「呪術師」と呼ばれるアシュリーのこころは、どんなに複雑だったことか。
人種の違いを越えて共通言語であるはずの音楽が、全く役に立たない社会論理。打ち砕かれた希望と絶望に、泣きそうになった。

ここまでは、夜の濃密な暗さや影の濃さが際立っていて、取り込まれそうになる。

そして……。
一転、白い白い視界。白い記憶。なんとなく想像はついたけど、もう途中で涙が出た。
砂漠の道も、スペインの空の下も、ロシアの静けさも、ジャングルの狂気も、すべて、旅人の物語。

世界中を駆け回る斉木さんを中心にエピソードが紡がれていきますが、行きがかり上やむなく探偵役となる彼。世界を回るだけならともかく、出会った人たちを糾弾しなくてはならなかった斉木さんのこころが、少しずつ疲弊していくのが分かります。
こころの平穏を祈るはずの修道院でさえ、彼の慰めにはならなかった。
ラストの【祈り】で、彼のこころがどのように解放されていくのか。ハラハラと舞う白いもの。図らずも探偵として殺人事件を看破してきた斉木さんですが、この白く舞うものを比喩として、物事は一方から見ただけが真実じゃないということを読者に知らせます。洞窟の謎についてのエピソードしかり。

こういう、「探偵役の眼から見れば真相はこうだろうけれど、当事者の価値観や角度が違えばその真相もまた違う」という、絶対的な探偵ではない斉木さん。ていうか、探偵としての自覚はなく、ただ彼自身が生きて帰らなければならないとか、彼の希望を摘み取った犯人に対する復讐としての糾弾とか、とにかく彼は、自分のために、謎を解く。その姿が、痛々しくもあり、親近感もある、不思議な感覚をもたらしてくれるのだと思います。

ミステリとしては、フーダニットでありホワイダニット。
それほどトリッキーなものではなくて、ロジカルに解決に導きます。
ロジックにまったく破綻はないし、伏線も埋め込み方も見事で綺麗に回収されてる。だいいち、伏線というにはあまりに自然で、それと気づかないものもたくさん!ラストになって、えええっ?と驚いてページを戻ることしばしばでした。
でも、ミステリミステリしてなくて、美しい小説を読んでいるなかに事件があって謎が浮かび上がる、という、まるで連城先生の小説のような印象です。とにかく素晴らしく美しい。

読者の先入観を引っくり返す鮮やかさも見事で、でも「どやさ!」みたいなあざとさはない。ただ、やられたなあと苦笑いしておでこをペシッと打つみたいな。

帯の裏表紙側の、一文にも、意味があってじーんときた。

とにかく、すごい新人さんです!
これから先、どんなミステリを、物語を書いてみせてくれるのか、楽しみでしょうがないです♪♪


(2010.2 東京創元社 ミステリ・フロンティア)
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