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『生きる技術は名作に学べ』 伊藤 聡 著

2010/02/12(金) 18:47:53 新書 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 私が日参している有名ミステリ読みさんで有名ブロガーさんであるINOさんの御宅で知った本。
 作家さんではなく一般のかたで、ブログが超有名だという伊藤さん。…でも私は存じ上げませんでしたごめんなさい。
 帯にある“名作”を全く読んだことがないので大丈夫かなとおもいましたが、予想外に楽しく読めました、うんこれはこのかたのブログが人気があるというのも頷けます。
 『車輪の下』とか『赤と黒』とかそこらへんの“名作”を、読んだことのある人もない人にも、愉快な本です、オススメです。




取り上げられている“名作”は…、

カミュ『異邦人』
ヘッセ『車輪の下』
トゥルゲーネフ『初恋』
アンネ・フランク『アンネの日記』
ヘミングウェイ『老人と海』
モーム『月と六ペンス』
マーク・トウェイン『ハックルベリイ・フィンの冒険』
スタンダール『赤と黒』
ジョージ・オーウェル『一九八四年』
トーマス・マン『魔の山』

の、10篇。

すいませんこの中の“名作”を、私はどれひとつとして読んでません…(汗)
ありがたいことに、各章の最初に、どういう作品かというあらすじが書かれているので、大丈夫でした。

で、それはミステリでいうネタばらしにあたるんですけど、いえいえ全然!
ラストがどういうことになっているかと確かに書かれているんですけど、この伊藤さんの目を通して書かれたものを読むと、へぇじゃあいっちょ読んでみるのもいいかな♪と、おもう自分がいます。
これはやっぱり、文章が上手い構成が巧みだということももちろんですが、伊藤さんというかたの読み方が丁寧でかつユーモアがあって、敬遠しがちな名作が、めっちゃ楽しそう面白そうと思わせてくれるんです。凄いです。

まず第一章の、カミュ『異邦人』の読み方からして愉快愉快。
大タイトルが、「ママンってなんだ」ですからね(笑)
『異邦人』のあらすじを見るとシビアだし、伊藤さんの書かれていることも芯の部分はシビアなんですけど、この“ママンってなんだ”というツカミが効いていて、そしてその斜めからの視線のままで書かれているユーモア抜群のセンスで、シビアな感じがあまりしない。
本当にここに書かれているように、ムルソーはつかみどころのない人物なのかママンはやっぱりママンなのか、原作を読んでみるかな、という気になるんです。実際読んだらしんどい内容や文体なのかもしれないけれど、その心配を上回る興味がわく。
レビュアーさんとはこういう人なんでしょうね。

あ、この10作を全く読んだことがない、とさっき書きましたが、ええと、アンネ・フランクの『アンネの日記』は、学校の図書室で手に取ったことはあるし、この日記がどういう経緯で書かれたとか結局アンネはどうなったという歴史的背景はもちろん知ってます。
で、途中まで読んだ記憶はあるんです。ただ読了したという確かな記憶がないというか、読み終えたのかもしれないんだけどもラストがどうだったのかさっぱり覚えてないというか。

…これはたぶん、密告によってアンネが隠れ家から連行されて行き着く先に待っているものがひとつしかないという事実を学校の授業で先に習っていたから、子ども心にはヘヴィすぎたんです。オチを先に聞いた上で読むようなもの、というとちょっと違うかな、でも、アンネが第二次大戦を命からがら生き延びた、という現実なら「ああこういう苦労を乗り越えて、その後は幸せになったんやね」と思えるのでまだ心理的にラクなんですよね。
でも実際はその反対で、ナチスによってその短い生涯を奪われた、という大前提があって、その上で、この日記を書いた女の子がいったいどういう隠れ家生活を送っていたのかを読むというのが、私の苦手な倒叙ミステリのようで、どうしても受け付けなかった。

でも、それだけじゃなかったらしく、この伊藤さんの目線で見たアンネ・フランクという女の子そのものに対して、私はかなり反発したんではないかな。
自意識超過剰で女王気質で自分には才能があることを自覚してそれをひけらかす、アンネ・フランクという少女は、その特筆すべき美意識とか文才とかそんな素質を覆う表層面がものすごく腹の立つ女の子でしかなくて(笑)。
男の子には異様に人気があるけれど、同性の女の子からは嫌われるタイプ。そして本人はそれに全く気が付いてないというイタい子。今の私たちの目線で見ると、アンネはこういう少女で、同世代だった当時の私もやっぱりどうしても好きになれない子だったんです。
大人から、ほらアノ子は可哀想な女の子なんだよだから仲良くしてあげてね、と強制されてでもこっくり頷いて近寄って挨拶したら実はとんでもないヤな子だったよせんせい!みたいな(爆)

伊藤さんの目を通したアンネは、今現在の私ならまた違う印象になるかもしれない、と思わせる。そしてそんな風に読み解ける伊藤さんがすごいなと思うのです。

他にも、世界名作劇場で観たアニメ、【トム・ソーヤの冒険】の続編にあたる『ハックルベリイ・フィンの冒険』について、前作のトムを毛嫌いするような書き方をして、そしてラストの一行で、さらりと本音を明かしてみせるリーダビリティに感心したり。

『一九八四年』というともちろん昨年のハルキ・ムラカミ先生の『1Q84』を引っ張ってくるのですがこのふたつの作品を同時進行で書けるという、伊藤さんの読み巧者に驚いたり。いえ、他の章の作品についても、幅広く関連作品を読まれていたり、古今東西の小説をしっかり読み込んでいたりと、私がいかに普段から上っ面しか読んでいないのかということを猛省させられましたよ。

生きる技術は名作に学べ、というタイトルで、つまるところ人間は今も昔もそう変わりなくて悩みも夢も昔から誰もが持っているありふれたものなんだから、という事実と、その今も昔も変わらない小さな人間が足掻きながらもがきながら生きている現実の投影された世界観を読み解けるだけの才能をもつ伊藤さんのセンス。
もっともっと、他の名作も書いてほしいなとおもいました。読んでみたいなあ。

(2010.1 ソフトバンク新書)
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