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深水黎一郎 > 『花窗玻璃 シャガールの黙示』 深水黎一郎 著 

『花窗玻璃 シャガールの黙示』 深水黎一郎 著 

2009/10/26(月) 21:11:48 深水黎一郎 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 …いや、読んでしまえば納得するんですけどね、何の特別装備もしていない私のPCでは、「窗」がどーしても出てこないんですよ!しょーがないので、ノベルスのHPからとかメディアマーカーのタイトルをコピペすることに。ああめんどくさいなー★
 それはともかく、内容は至極正統の本格ミステリ!帯ののりりん激賞とか二階堂先生の絶賛とかのお気持ちがよく分かりますwいやマジで、コレは買いですよ!
 たぶん、犯人をそのまま書きはしないものの絶対にネタばらしになると思うし、そこらをぼかして書けるほどの文章力なんて持ち合わせていないので、未読のかたはここでストップしてくださいね。




いやー、興奮した!
面白くて良くできてるミステリに当たると、読後に体温上がるんですよ私。興奮で血の巡りがよくなるんでしょうね(笑)

それとノベルスにしては珍しく2段組みじゃなかったのも読む前は意外でしたけど、読み進めるうちにこりゃ2段組みではさぞ読み辛かろうなあと、その配慮(?)に感謝。そんなことになったら、かの『銀英伝』聖典でもスーイスイ読めてしまうかもしれんくらい、難儀したと思う。

シリーズを通して、探偵役は瞬一郎くん、ワトソンというかこの場合ただの聞き役な(苦笑)伯父さんの海埜警部補は相変わらずだし、妙に屁理屈っぽいけどまあ確かに筋は通ってる瞬一郎くんの長広舌もそのままですが、今回はちょっと趣向が違って、瞬一郎くんがもうちょっと若い頃にフランスで体験した出来事を彼自身の手でテキストにしたものを伯父さんが読む、という具合。
なので事件の概要を伯父さんが必死で読んでる部分と、その合間に挟まる甥っ子と伯父の会話というパートに分けられていて、実はその現実の会話のパートの方がなんとなく締まらない感じを受けます、が。
ノベルスのHPで著者インタビューを読むと、どうやらそれは次の作品への前フリのようですね。確かにそれっぽいくだりもあるし。じゃあ気にしなくていいんだ、ということで。
ただ、テキストに起こされた瞬一郎くん一人称と、現在の伯父さんとの会話や態度に見られる三人称というか伯父さん目線とは、全く別人のようなんですが(笑)
一人称だとちっとも変人じゃないよー★

その瞬一郎くんが関わることになったフランス・ランスでの事件は、ジャンルとしては不可能犯罪になりますね。
そしてその事件と並行して、というかそれ以上に文字数が使われているに違いない美術史・芸術観のあれやこれやに圧倒されます。いやこのシリーズは全部がそうなんですけども。

タイトルのサブに“シャガールの黙示”とあるし、実際シャガールのランス大聖堂にあるステンドグラスが重要なキーポイントではあるんですが……いやーこれはやられたなあ!
シャガールという名前すら煙幕でしたよ!
88ページから始まる、現在最も有名で人気があって私みたいな美術オンチでも知ってて図書カードにも使われている、あの画家のあの絵と、それにまつわる薀蓄の方が、事件の真相の写しになってたのにはびっくりです。
いやとにかく美術関係には全く脳みそが動いてくれない私なので、説明されてようやく、ああそういえば聞いたことあるわその話!てな具合なんですけど、でもこれがまた、なんと綺麗に伏線を回収してあることか!
使われたトリックも、美術関係にちょっとでも詳しい人ならピンとくるかもしれないんですけど、門外漢の為にその手掛りは全部が全部ちゃーんと書いてあるし。
かなり込み入った事件ですが、その解き方は素晴らしく美しいです!
ブラボーブラボーwww

瞬一郎くんと知り合いになった老人のしたこともすごいけど、これも手ががりはフェアだったし。そのプライドも学識も、そして瞬一郎くんの言葉をちゃんと受け止めた上で対峙したシャガールのステンドグラスに受けた衝撃の大きさも、老人特有の頑固さと高潔さと孤高さに、やっぱり憎むことはできませんね。
思い留まった以上は警察に通報するほうが間違ってるし、その人生において最後に瞬一郎くんに出会えたことが、この老人をどれだけ救っただろうと思うと。ちょっと涙が出ました。
そうそう、その老人の計画したことについての枝葉の話。
奈良の大仏建立の際、疫病が蔓延したという話はもちろん知ってますが、そうか、こういう事情だったか。なんかこのあたり、高田崇文センセのシリーズに出てきそう…ん?もう出てたかな?(汗)
いや確かにこの手法は、あんまり広めないほうがいいですよね…マジで無差別テロに使われそうだ……。

フランスに1度でも行ったことがあって、ましてや大聖堂フェチとか(いるのかそんな人種)ステンドグラスマニアとかなら、むしろくどくどしいまでの説明文が続くのでひょっとしたら退屈かもしれない。
でもそれでも我慢してちゃんと読んだ人には、その中にさりげなく伏線が仕込んであることも納得でしょう。いやまさか、ヨーロッパに点在する数多くの大聖堂についての説明までが伏線ですからねえ。脱帽です。

ゴシック建築ロマネスク建築に、ステンドグラスの中世と近代の違い、またひとつ賢くなった気がするですよ。(幻想です)

でも一番のミソは、さっきも書いた88ページからの内容について本来ならここらへんで挿入されてもいい参考資料(という言葉がいいのかどうか…)が、事件の謎解き部分のクライマックスにあたる303ページで、ようやく、ホラこれのことさ!どどーん!!!とばかりに出てくることですたぶん。
だから、未読の方がこれを買うかどうするか悩んでいるとしたら、ページをぱらぱらするのも厳禁です!なにも知らずに手に取って、ようやく出てきたそれに一気に腑に落ちてください(無茶なことを…)

とにかく、本格ミステリとして素晴らしい作品ですwww
年末ベストに入れましょう。
こういう愉快なミステリが読めて、ああ嬉しいことったら!



(2009.9 講談社ノベルス)
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