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『追想五断章』 米澤穂信 著

2009/10/24(土) 15:25:54 米澤穂信 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 米澤さんの作品を全て読破したわけじゃないんですが、今まで読んだ作品だけと比べても、随分印象の違う作品でした。
 ご自身のブログで「渋い作品」という自己評価があったのですよ、確かにそうですね。
 間違いなく、今年のミステリ界のトピックのひとつであろうと思います。
 皆様は、もう読まれましたか?



えーとね、一読した段階だと、かなりあっさりテイストな感じがしたんです私には。
でも、しばらくすると、なんだかボディーブローのように、じわりじわりと沁みてくる。もう一度読みたくなる。
いぶし銀という表現をした本読みさんも見ましたが、そこまで渋くはないよ。若さゆえの遣り切れなさの方が大きいと思う。

まだ半人前なだけに、どうにもならないジレンマというか無力感に苛まれる主人公の芳光くん、そして笙子さん。
無責任な社会に踊らされて虚無に陥ってしまった伯父の広一郎氏、そして孤独に耐えられなくなった母。
誰もが心にぽっかりと暗い穴をあけていて、ずぶずぶになってしまう怖さ。

そして。
芳光くんの手際の良さを頼りに、どこかに散らばっているはずの父の五つの断章を探してほしいと依頼する北里可南子。父のペンネームは、叶黒白。

帯にあるように、「本格ミステリ」かと言われると、かなり捻くれていると思います。
特に、終盤での、五つのリドルストーリーとそれぞれに用意されていた結末との組み合わせ方なんて、あの『インシテミル』にも通じるようなパズル的でありながらすごく残酷な感じがひしひしとしました。
彼女が、一つのストーリーが見つかったと報告されるたびに芳光くんに打ち明ける結末は、叙述トリックという言い方でいいんでしょうか。

対して、22年前の事件の真相については、ある程度ミステリを読んでいる人ならきっと、そんなに難しくないとおもう。ていうか、すぐ分かる。
むしろ、何故この五つのモチーフは全て同じような設定なのか、そこから導かれる答えは?その答えよりも、筆者である彼女の父、北里参吾氏は、一体誰に読んで欲しかったのか?誰に読ませたくなかったのか?誰に真実を知ってほしかったのか?と。その重さが、ずしんときます。

生前の北里参吾氏の人柄は、もっと明るく突き抜けている。自分というものを知っていて、自分の力量の範囲内で目いっぱい生きていた人。そのことがどれほど羨ましいか、芳光くんや笙子さんでなくても、よく分かります。
もう亡くなっている人の、光り輝いていた人生の痕跡を辿る作業は、翻って自分の影を濃くしてしまう。
その影に呑み込まれないだけの強さがあれば、芳光くんはもっと頑張れただろうし、伯父さんに対しても、あそこまで卑屈にならずにすんだ。
可南子さんの思いに気が付けばつくほど、彼は苦しい。そのことが、読んでいてつらくなるほどでした。

もともと、芳光くんはとても頭脳明晰な人のはずです。
やむなく休学してるけど、大学生として学びたい事ややりたい事が人一倍ある人だと思います。
でも自分自身に精一杯で、母も伯父もとにかく全てが鬱陶しくて、でも一番情けないのは自分で。なんていうか、根暗な人です(苦笑)
伯父さんに黙って調査をしていた是非はともかく、その手際や首尾を顧みて、自分にフィードバックさせようとなんで思わないんだろうと。

一方の笙子さんも、軽い気持ちで手伝いを買って出て、あまりに真実が重そうで、無責任だったと言える潔さがあるのに、なんでこんなにシビアなんだろうかと。

五つの断章を見つける過程は、そんなにうまくいくものだろうかとずっと思ってました。
なので、読み所はそこじゃなくて、例えば芳光くんが単独で宮内さんに会いに行ったくだりの遣り取りとか、その宮内氏に宛てた参吾氏からの手紙のあまりに率直な内容や、そういう人間の剥き出しの部分と、子どもに対する親の愛情の向け方の様々なこと、そういう気がします。
これ、なんかどこかで……と思ったら、近藤史恵先生の筆致に似てるような感じを受けました。乾いていて、剥き出しで、人間の情が絡み合う。

真実を知っているのは誰。
真実を追っているのは誰。
隠したい真相と、知りたかったこと。そのイコール。
ミステリは所詮、パズル。

現実に悩んでいる人には、たいそうキツイ作品じゃないかと思いますが、その大団円じゃないラストがより胸に沁みる人もまた、悩んでいる人なんじゃないかと。

古典部などのかっちりしたミステリもいいけど、読み手の心に小さなささくれを残すような、そういう米澤作品もまた、もっと読みたいなあと思いました。


(2009.8 集英社)
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