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『祖国なき忠誠』 翔田 寛 著

2009/10/17(土) 16:48:35 翔田 寛 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
ミステリチャンネルの講談社bookiでのインタビューで、著者の翔田さんは、「ミステリというよりも、人間の内面の方を重視して書いた」という意味のことを仰ってました。確かにそうですね。
『消えた山高帽子』(ミステリ・フロンティア/創元推理文庫)のようにかっちりした謎解きミステリも書かれる翔田さんですが、『誘拐児』のような人間の情の部分に訴える小説もあります。今回のこの『祖国なき忠誠』は後者タイプだといえる、かな。でも、最後まで隠された思惑とか、明らかなミスリードとかもあるので、ミステリ仕立ての一般向け、という感じです。フーダニットでもハウダニットでもホワイダニットでもなく。ひたすら追跡劇が繰り広げられます。



且つ、前作の『誘拐児』では、刑事さん達の背景が薄いという批判をよく見ましたが、今回はそのメインの刑事さんをほぼ1人に固定して、相棒に日系二世を組ませると。しかも日本は8/15の敗戦直後、あまりに微妙な立場の日系二世のアメリカ人と、その彼が追う人物もまた二世の自分と同じ立場であり、逃亡を手助けするのは在日朝鮮の人たち。
結末から言えば、日系二世も在日も、そして生粋の日本人であっても、家族はもちろん、同じ仲間は大切なんですね。(それと、これは差別意識じゃなく、私は同胞という言葉に違和感があります。菌糸の飛び交うキノコみたいで。仲間のほうが好き)
目の前に困ってる人が居たら、助ける。
そんなことすら、なかなかできない世の中で、どこまで人を信じられるか。
闘う相手は誰なのか、その見極めがつきにくい混乱した社会の片隅で、やっぱり人は人を助けようとする。戦争とか敵国とか植民地支配とか、どれほど抑圧しても、いやその抑圧が強ければ強いほど、解放のエネルギーは大きく、一方の恨みは募りもう一方は怯えて逃げ出す。戦時下の日本もアメリカも、異国人に対してやってることは変わらない。そんな時代の凝縮した形の小説だと思います。

理不尽に奪われることの悔しさと無情さを噛み締めて、そこから地位の回復とチャンスを窺おうとした彼のしたことを当時の環境なら誰も責めないと思うし、(逃亡者と追跡者の関係の秘密が一番のミソでしょう)、血の滲む思いで任務を遂行している姿はやっぱり気の毒だと思う。

この小説の中で、最も最低な部類の人間として登場するのも日本人なんですけど、アメリカ人から見た日本人と在日の人たちが恨み骨髄まで達するほど憎む日本人とのギャップが印象深いです。日本人は滅私の心でひたすら国家に殉じ職務に遂行する為に、団結した民族というソフト面としてはこの上なく優秀だと感じ畏怖するアメリカ軍司令部。片や、ひたすら侮蔑し嘲笑し差別し虐め抜く日本の非道をその身に受け続けてきた在日の社会から見た、日本人。
狭間で揺れる、ニュートラルな刑事。彼の心は、亡き息子と抜け殻のようになった妻のことだけ。
みんな、心に傷を負っている。

視点人物は、日本の刑事である城戸さんと、山間で辛酸の日々を送りながらも生き抜く在日の家族とその甥です。
城戸さんの相棒である日系二世のマイク・ミヤタケは、あくまで城戸さんと、駐留軍の上司から見た姿のみの三人称なので、彼の心の内は、ラストになるまで明かされない。
ただ、この本の発売直前までの仮題、《トパーズからきた男》だったら、多分ダブルミーニングっぽいミステリ色の強い意味のタイトルになってたと思う。
この《祖国なき忠誠》とすることで、故国を追われ帰る国も無い人たちの嘆きと逞しさをより合わせたエンタメ小説の形にシフトしたんじゃないかと思います。

早くに購入したのに、しばらく寝かせてた(積んでた)本ですが、うーん……終戦の日に合わせて読むべきだったかなあ。

戦争というものがどれだけ人権を蹂躙し尽くすのか、どれほど人の心を抑圧するのか、その結果、人間は、国家はどうなってしまうのか。
果てしなく続く悲劇と、それでも人を好きになる心と、大切なものを守ろうと歯を食いしばる極限までの精神力と。

人間賛歌というのは大袈裟ですが、打たれてもへこたれない逞しさをしみじみ感じました。
日本国内だと、命からがら復員した身内とか、学校の授業でも繰り返し広島・長崎の被爆体験などを聴く機会はありますけど、アメリカに渡った日系の人たちのご苦労を聴くことはあまりないですよね。
戦勝国も敗戦国も関係なく、立場の弱い人たちの言葉を、疎かにしちゃいかんと思った次第です。


(2009.7 講談社)
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