こんな本読みました。

読んで感じて書き出して、そして忘れていく。備忘録ブログ。

スポンサー広告 > 『一応の推定』 広川 純 著
広川純 > 『一応の推定』 広川 純 著

スポンサーサイト

--/--/--(--) --:--:-- スポンサー広告 EDIT
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Comment (-)

『一応の推定』 広川 純 著

2009/06/27(土) 14:28:12 広川純 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 もともと本格ミステリがメインで社会派はあまり読まないんですけど、これは良かったと思う。と言っても、単行本の方は知らなくて、評論家さんのブログで初めて知って文庫落ちしたのを購入したんですが。
 第13回松本清張賞を受賞したというこの作品、確かにそれにふさわしい読みごたえでした。
 激しくネタばれしますので、ここから先へは既読のかたのみお進みください。未読のかたはぜっったいにココでストップ!



私のまわりに保険外交員の友達もいないし、私自身が保険に何の興味もないので、全く知らない世界だったんですが、大丈夫ですちゃんと付いていけました。

滋賀の膳所駅を通過する新快速の人身事故。
初老の男性がかけていた傷害保険を、一刻も早く支払ってほしいという遺族の言葉に不審な何かを感じた損保会社は、保険調査員のベテラン・村越に調査を依頼する。同行するのは損保会社の新人・竹内。
果たしてこれは自殺か事故か。
村越は粘り強く慎重に、男性の生前の姿を追っていく。

うーん、保険調査員って、探偵とほとんど一緒の仕事なんですね。依頼者が個人か損保会社かの違いってだけで。
ただ、探偵はその依頼者の知りたいことをその範囲内で調べるのに対して、保険調査員の場合、依頼主のメリット、というバイアスがどうしてもかかるらしい。自殺と判明して保険金を支払う義務がなくなれば、損保会社は丸儲け。もちろん調査員に対するその報酬も美味しい、その誘惑が見え隠れする、それが新人の竹内氏の存在。

で、視点人物の村越氏は、確かに若い頃はいろいろ失敗もあったらしいけど、さすがにベテランともなると、その調査はじれったいほど慎重になる。でもそれを、普通の人は「誠実・実直」というんですよね。
そういう丁寧な仕事を、新人にどうやって納得させるか。
(結局、竹内クンは半分程度しか理解できなかったようですが…)

目撃者を探して少しでも可能性のありそうな人のところを丁寧に丁寧に辿って行くうちに、見えてくる裏事情。
それは原田さんの遺族の抱える問題とは別の、自殺か事故かの判別がますます曖昧になるようなカラクリが隠されていて、おやじゃあこれは事件だったのかーと二転三転するんですが、それがアクロバットな離れ業じゃなくて地に足の付いた感じで好感がもてます。

この村越氏の考え方や動き方、どっかでみたなあと思ったら、鮎川先生の鬼貫警部によく似てるんです。だから、本格好きにも受け入れられやすいんだと思う。
特に、遺族に対する姿勢とか、目撃者の家族を慮る心とか。
どれだけヒステリックになってても、「私を利用しなさい」とまで言う、こういう人が前に居たら、遺族は信じようとおもうでしょうね。
私がへぇと思ったのは、ホームレスになってしまったらしい、目撃者と関係のありそうな人のところに行くのに、その人が信頼する友人の名前で焼酎をさし入れするところ。
長年の経験で、人がどうやったら心を開いてくれるのか、どうしたら信用してくれるのかを知ってる心配りですよね。

で、唯一の目撃者と見做されていた太った人が、実は警察に申告した名前ではなく別人だった、というあたりから、一気に話が進みます。
えっじゃあ事件?と思ったら…真相は、そうきたか!
本格でいう伏線にあたるものもちゃんと書かれていたので、そりゃもうフェアで綺麗です。
反転する大どんでん返しというのではなくて、あくまでも調査の結果として。
誰かが意図的に真実を隠していたわけでもなければ、捻じ曲げようとしたこともなく。むしろ捻じ曲げているのは損保会社の方かな(笑)

人間に生き写しかと思われるほどに精巧に作られているはずの人形の、閉じない瞳。
滅多に寝込むことのなかった原田さんが珍しく頭痛がするといって薬を飲む。
一方で孫の病気で大金が必要にもかかわらず、何故か夫婦で旅行を計画していたという不自然さ。また、絶対に自殺ではないと言い張る遺族の、揺れる心理。
そして事故現場での、原田さんの直前の姿勢と、遺体の様子。言われてみれば自殺には思えない、ちょっとした引っかかり。全ては人形が知っていたんですね…。
果たして保険金は支払われるのか?その解決は、誰からも異論の出ないだろう、完璧にしっかりした事情が明記されている終わり方です。

臓器移植の問題点を、その家族の立場から、また一般市民の感覚から、実感をもって書かれる部分の印象深いこと。確かに、15歳以下の子どもは国内で移植を受けられないと規定したのなら、その責任でもって国が手術費用その他を補助してあげてもいいですよね。そういう税金の使い方を国民は怒らないはずです。

また保険会社にお勤めだったという広川さんの経験が随所に活かされていて、フィクションとは思えない迫力があります。
広川さんは京都生まれで関西がホームグラウンドのようで、大阪の繁華街、京都のじっとりした感じ、また事故現場の膳所の侘しい感じ。
膳所駅に行くのにJRか京阪か、とか。淀屋橋の界隈。大阪の地下鉄の使い方とか。関西人には馴染み深く読めました。
京言葉と生粋の大阪弁がきっちり書き分けられているのも素晴らしい。他の地域のかたにはイマイチ掴みづらいでしょうが、京都人として、また大阪の友達が居る立場として、このニュアンスの違いは見事です。ここまで綺麗に書き分けられた文章はそうそうないはず。多分、大阪を愛してやまない有栖川先生も納得されると思えるくらいです。

このところ肩透かしな本ばかりだったので、久々にいいもの読みましたw


(2006.6発表、2009.6 文春文庫)
スポンサーサイト
Comment (-)

ページの最初に戻る

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。