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『バルト海の復讐』 田中芳樹 著

2009/05/17(日) 20:57:54 田中芳樹 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 
 …バルト海ってどこ?(苦笑)
 ま、この作品の設定年代である十五世紀の頃の、舞台として出てくる地図が最初にちゃんと出てくるので心配はないんですが、それでも当時の日本でいえば室町時代末期から戦国時代?になるのかなあ、応仁の乱が1467年ですから。
 なんにせよ馴染みの薄い地名と時代の北ドイツ。世界史が苦手なかたにはキツいかも(苦笑)
 田中御大らしい、魅力的なキャラクタ満載の冒険活劇。
 ルネサンス前のまだ貧弱だったヨーロッパについて詳しくなることうけあいです。トリビア本として読んでも面白いですよ。



冒頭でいきなり主人公が仲間の裏切りによって生命の危険!
というドラマチックなシーンで始まります。
あとはもう、裏切り・謀略・流血・そして何故か漫才(笑)
とにかく、いっときもシーンが留まらない、躍動感というか劇場型というかめまぐるしく変わるシーンに、読んでる方も考えてる余裕なんてありません。遅れないように必死でついていくのみです。

それにしても、本当に馴染みのない、中世の北ドイツ、それも「ハンザ同盟」が軸の物語なんて、後にも先にもこの作品だけじゃないでしょうか。

田中先生のあとがきにある、「ハンザ同盟」を舞台にした理由がすごい。
……一体、百科辞典で「ハンザ同盟」に興味を示す小学生が、他にいるもんでしょうか。やっぱり早熟だったんですねえ、田中先生。
一応、歴史は好きですがそれでもハンザ同盟なんて習ったかなあと、ザルの記憶をひっくり返して見ても思い出せないです私。

おかげで、知らなかったことがいっぱい出てきて、ストーリーとは別にそれだけでも読む価値は十分にありますね。

だいたい、解説の天野さんも書いてらっしゃいますが、じゃがいもを知らないドイツ人、というのがまず想像できないんですけど。

また街は暗く、地理的なこともありますが冷たい風が吹きすさぶ荒涼としたイメージで。
そして、海上も陸上も、とにかく旅をする、貿易をするということが生命の危険と隣り合わせという時代。
もちろん、統治者はいますが、法整備は不十分だし警察機構も存在しない。
モラルとかルールとかいうのも統治者の都合でコロコロ変わる。むしろ、海賊や山賊と結託して商人の財産を略奪したり、貴族に濡れ衣を着せて失脚させることも横行していたんでしょうね。

現在の人間からしてみれば、信じられない。
国際法廷にずらずら列をなすような人が富と権力を掌握し、不文律も勝手に変えたり。こんな時代に生きてなくて、本当によかった。

そう、そのじゃがいもも南米を侵略してヨーロッパに持ち込まれたもんだし、とにかく中南米の未知の文明社会を蹂躙してその財宝を残らず自分達の国に略奪するまでのヨーロッパは、こんなに貧しい世界だったのか!
そりゃペストも大流行しますって。

マルコ・ポーロが「東方見聞録」を執筆、当時の唐を賞賛しても誰も信じなかったというのも頷けます。自分達の世界からは全く想像もできない、彼らの思い描く天国よりもまだ綺羅綺羅しい東方の世界。はーーー…もうなんていうか、カルチャーショックに近いような。

まして日本は、大和朝廷の時代の百村江の戦いとか、鎌倉時代の元寇とか、まあ江戸時代末期の黒船来航をアメリカの緩やかな侵略と取るかはともかく、ほぼ他国人に攻め入られた経験のない国なもんで、お伊勢参りだの参勤交代だの、このハンザ同盟の頃のヨーロッパと比べると、なんとまあ牧歌的なことか。
未だに海外旅行で危機感ゼロなのも、しょーがないです、そんな歴史がなかったんやもん。

他にも、今のクリスマスという行事についての話やら、処刑や私刑についての薀蓄、いろいろと読み所が多くて楽しい1冊なんですが、私が印象深いのは、ユダヤ人のところ。
確かに中世ヨーロッパって言ったら、魔女狩りだの異端審問だの、人命が紙より軽くて正義もなにもあったもんじゃない時代だというのは知ってますが、うーん、ユダヤ人というのは迫害を受けていない時代なんて皆無なんじゃないだろうか。
今でもやっぱり、そういう風に考える人がいないわけじゃないし、いくらアインシュタインが天才物理学者としてもてはやされても、彼がユダヤ人ということを表立って賞賛する人ってあまりいないんじゃないかと思う。

百万都市を誇る中国の都と、二万三万多くて五万という人口しか養えなかった当時のヨーロッパ。
また、距離や重さや貨幣価値を今の基準で言うと、という具合に、全体が後世の歴史家(これは『銀英伝』だ 笑)のような視点で書かれていて、なんというか極端な話、田中先生の一大紙芝居のような語り口(スケールちっちゃいなー)。
だから、主人公のエリックに過度の肩入れをすることなく、ただ続きを知りたい一心でぐいぐい読まされます。田中御大の上手いところですね。

名前の付いているキャラクタは誰1人イメージが重複することがないので、混乱もないし何より黒猫を「白(ヴァイス)」と名付けるしゃれっ気がいい!
そして一番くえないのは、この黒猫「白(ヴァイス)」だったりする、ラストの爽快感。
その前には、主人公のエリックを裏切った相手との直接対決で結構凄惨なシーンが続くんですが、だからって読み手がどーんと重くなることはなく、むしろハリウッド映画のようなスペクタクルだと。

シリーズものではなく、ただこの1冊の中に、繁栄を極める前の雌伏の時代のヨーロッパと、その中で生きる人々が確かに息づいていて、その物語を自然に過不足無く書ききってしまう田中先生の見事な筆捌き!
堪能いたしましたwww

(2008.12 光文社文庫)
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