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『HEARTBLUE』 小路幸也 著

2008/09/03(水) 10:41:07 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
私が小路さんの作品に嵌まるきっかけになった『HEARTBEAT』の続編です。
本書及び前作を未読の方は、これより先にはお進みにならないようお願いします。
特に前作の完全ネタバレですので、『HEARTBEAT』をお読みで無い方は、絶対にここで引き返してくださいませ。




待ちに待った続編です。
小路さんの作品の中では、このシリーズは分厚いほうですが、そんなの気にならないくらい好き。
それは多分、他の作品には無い生々しさがあるからかもしれない。
『東京バンドワゴン』シリーズは只管あったかくて優しくて、いい人ばかりの世界。疲れた心にじんわり沁みてくる処方箋みたいなお話です。
『キサトア』や『東京公園』は絹のような手触りでふわっと、『ホームタウン』はハードボイルドタッチでドキドキ、『パルプ町シリーズ』二作と『~ぼくたちの声』この前出た『カレンダーボーイ』はどうにもならない切なさや哀しさと少しの希望を。
そしてこのめぐりんシリーズ(勝手に命名)では、嘘もかすかな苛立ちも愛情と嫉妬もセックスも、さらりと書いてあります。『Q.O.L』が近い世界観ですね。でもイヤじゃない。当たり前にあることを照れないで綺麗に表現されているので、等身大の人間が物語の中にいて、なおかつこんな人が身近にいたらいいなあと思わせてくれる。そんな気がします。

今回の舞台はニューヨーク。
ニューヨーク市警察本部失踪人課に勤務するダニエル・ワットマン。父・デイヴィッドも交通課の警察官として実直に働き、その姿を心から尊敬するダニエルと同僚たち。ある日、一人の少年が失踪人課にやってくる。「ペギーがいなくなった」と言うサミュエルは<彼>を通じてダニエルとは顔見知りだった。ペギーのことを調べていくうちに疑惑を抱き始めるダニエル。
一方、ニューヨークに拠点を移した巡矢新。以前からの知り合いでニューヨーク在住の女性フォトグラファー、恵野かんなから一枚の写真を見せられる。そこに写っていたのは、<あいつ>の友人ダニエル、そして少女のゴースト。この少女を調べようと行動していくうちに行き着いたのは、ダニエルの家族だった。

この作品で一番活躍しているのはなんといってもサミュエルですね。
ダニエルの勤務時間にペギーの失踪を持ちかけたのは偶然でしょうが、ダニエルの捜査状況もめぐりんの動きも両方知っていたのは彼ですから。
でも、それ以上に全体を覆っていたのはやはり、<あいつ>であり<彼>である、亡き委員長。めぐりんにもダニエルにもそしてサミュエルにも決して忘れられない存在で、いまなお生き続けています。
めぐりんの<あいつ>こと委員長に対する、なんていうんだろう、純愛?思慕の念、無二の存在という心情はもう、オトメゴコロをぶち抜いてくれますよほんと。元々、同性愛に対するわだかまりがあまり無い私は、「このまま委員長をずっと想い続けて欲しいよーv」などと、年甲斐もなくときめいてしまいます。←なんか違う。

実直で誠実な父が息子に隠し続けた秘事、レベッカとの微妙な距離感。
ダニエルが直面するのは、今まで想像もしなかった過去。でも、ダニエルならきっと乗り越えられるだろう、と思わせてくれる人柄が丁寧に描かれています。
まためぐりんも、心の奥に宝物のように抱き続けている存在を秘めたまま、前向きに仕事に励んでいます。かんなに対する誠実さも、手紙を寄越してきたヤオに向ける感情も、現実にちゃんと対峙している。
それでも、結局この二人は、同じ目的に向かいながらも対面しなかった。
めぐりんはビデオテープで、ダニエルは手紙で。
面と向かい合うには、まだ委員長の残像が鮮明すぎるのでしょうか。

不可解な少女たちの死、ゴーストの少女と生きた少女、そして、ひた隠しにされてきた過去。誰も悪気があったわけではないが、物事は坂道を転がるように最悪の事態になってしまった。でも、やはり許されない。公表することは全てを失いかねない。だから関わった全ての人は、口をつぐむことを選んだ。
これでいいと私も思います。公表したところで、誰も幸せにはならないし。
……ただ、どうしても納得できないことが。
ダニエルがでっち上げの遺言ビデオに引っかかりを感じて、結局真相を知ってしまうことはやむを得ないし、多分知っていたほうがいいのだと思います。でも、それをわざわざ手紙書いてめぐりんに伝えることはないでしょう。めぐりんが<あいつ>の親友だったダニエルを思ってしたことを、「すべてを聞いた。ピートを責めないで」というのは、ダンに向けられた好意や思いを台無しにしてはいないかな。今流行の言葉で言えば「空気読めよ」ってとこじゃない?父親譲りの実直さで伝えずにはいられなかったんだろうけれど、それはもっと後、実際に顔を合わせる機会があるならその時でよかったと思う。ダニエルはひょっとして、自覚していないけどかなりの自己チューかもしれない(笑)。

また、かんなの存在。めぐりんに好意を抱くものの、きっぱり断られているが、やはり一緒にいられるのは嬉しい女心。でもね、めぐりんの心の中に踏み込むのはやめようねみっともない(←めぐりんファンなもので、めっちゃ手厳しい)。まあ、めぐりんが「気が合って話が尽きなくて、気持ちのいい女だ」って言ってるからいいんだけれど、私、人の心の中の聖域ともいうべき場所に入り込もうとするキャラってダメみたいで、以前別の作家さんの本でそういう女性が出てきて、マジで本を投げ出したことがあります。ところで…私最初、“かんな”って見た時『シー・ラブズ・ユー』の終わりのほうで生まれた紺さんと亜美さん夫婦の赤ちゃんかと思っちゃった。別人でよかった…。かんなも哀しい過去背負ってますものね。

ダニエルのとった行動にしろかんなのふるまいにしろ、物語の構成がどうこうではなく、まるで実在する人物に対するような評価をしていますね私…。だとすれば、登場人物が生き生きと描かれているってことで見逃してください(大汗)。

私が一番好きなシーンというか会話は、実は292ページのめぐりんの仲間とのところ。
「~死ぬ気で飛ばして来てくれ」から(そりゃ大変だ。すぐ行く)のあたり。いいなあ、このスタンス。仕事仲間がこういう人たちだと、貸し借りとかそんなわずらわしさは感じないでしょうね。

このシリーズは三部作の構想だそうで、じゃあ次の作品はどんなだろう、<あいつ>のゴーストと話した少女はめぐりんの希望の光だろうから、そんなエピソードもあるかな、などと妄想を膨らませるのでありました。
これからも何度も何度も読み続けるだろう、大好きなお話ですね。本当にオススメ。

うわー長!これでも端折ったんですけど…。すみません。


(2007.12.04)
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