こんな本読みました。

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『小さな男*静かな声』 吉田篤弘 著

2009/03/06(金) 14:42:19 吉田篤弘 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 どこで見たのかは忘れましたが、なんか面白そう♪と反射的に検索して、図書館で借りた本。
 私にとっては初読の作家さんだし、明らかにミステリではないので、買うほどの冒険はできませんでした。
 当初はどうしてくれようと思いましたが、少しずつ慣れてくればもう面白いというかいいお話だーと素直に思えた私。書店で見かけたら、買うと思います。
 ネタバレというほど仰々しいものはありませんが、先入観なく読みたいと思うかたは、ここでストップしてください。



えーとですね。

読み始めてまず思ったのが、「これはどこかで読んだ文体じゃないか!」というものです。
すぐに出てきましたよ、空想と妄想の天才、モリミーこと森見登美彦氏。
あの世界観によく似てる。

この作品も、“小さな男”という男性の理屈っぽさという夢想・空想・妄想と、“静かな声”という女性の理屈っぽさという夢想・空想・妄想が、かわりばんこに書かれていて、ということは、空想とか妄想を文学にすると結局こういう文体になるのかーという発見をしたようなものです。

そしてまた、小さな男のパート、静かな声のパートそれぞれに、彼と彼女の一人称の部分と三人称の部分があって、この2人の内面を体感することも俯瞰することもできます。この趣向が良かった!

この“小さな男”が、どれくらい小さいのか、果たして本当に小さいのか、それは結局あいまいなままなんですが、最後まで読んでみるとそれは、「地球が日々刻々とまわっている」という事実すら忘れ、ただ仕事と研究という趣味にのみ生きていた、世界と視野の小さい男、という比喩なのかなあ。

とか。

“静かな声”という女性の声がどれくらい耳障りがいいのか、そして本人の自覚とどれくらい乖離してるのか、という結論は出ずじまいですが、とにかく何かにひたすら怯え、息を潜めて生きている姿が、たとえ内面でどれほど悪あがきしていようともそれが表に表れない、悪く言えば抑揚の無い女性、という比喩のような気がしました。

ミステリのように、「ココとココが伏線!」とか「アレとコレがそう繋がるのかあ!」という派手な展開じゃないんですが、この2人の息苦しいような狭っ苦しい世界が、ゆるゆるとリンクしていくというのは、読者にだけ分かる神の視点。当の2人はそんなことに気付きもしない。リンクしてるとかそういうのは、未だ想像の外のこと。

ずっと夢想・空想・妄想の世界で生きてきた二人なのに(笑)

でも、そういう形而上学のような哲学を持つ二人の世界には、私達読者が心から頷いたり共感したりできる言葉に満ちています。
私は日頃、こんな風にものを見たことがあったかなあ、こんなこと考えて無かったけど、言われてみれば確かにそうだわ、って。

私が印象に残ったのは。

「やはり」とか「そうなんだ」という言葉についての考察。

「大いなる白紙」という大きなノートに寝転んだときの、手触りや感覚。

「ついに」と「遂に」の違い。

階段の一段ぬかしを嫌う思い。抜かされる階段の身になってみる心境(すごいな)。

まるっきり1年違いの同じ誕生日に生まれた人とのあいだには、1年365日分、1年で生まれるという生命一億四千万人の行列ができている。

兄・姉と弟・妹の違い!これにはもう、手放しで拍手したくなりましたのことよ!

鞄の中のお弁当効果。これも分かるなあ♪

そして。

「結局、いちばん残しておきたいものはいつでもこうしてこぼれ落ちていく。人の記憶なんてそんなものだ。(中略)代わりにどうでもいいことばかりが克明に記録されてゆく。
 でも、それを「楽しいですね」とミヤトウさんは言っていた。」(256ページ)

というくだり。ここが一番すき。

ふふ。

それにしても、人間、なにがどう転んで人に対する見方が変わるか、分かったもんじゃありません。
サンドイッチのレタスに隠れて居眠りしているハムのような印象だった同僚が、ひょんなことから自転車の師になったり。
小憎たらしい後輩の茂手木さんがいつのまにか愛すべき後輩になっていたり。

人生そんなもんです。

精神的に余裕が出来るとか、世界が広がるとか。
今まで見えなかったものが見えるというのは、年齢を重ねたというか経験を積んだという証拠でもあるだろうし、それはつまり時間が止まることなく流れているからで、ひとつところに止まっていられないというのが人間という生き物だと思う。
変わりたくなければ変わらなくても別に死にはしないけど、変わりゆくのも楽しいよ、ということです。

思い詰めるほど悩んでいる人には届かない言葉かもしれませんが、そのトンネルをくぐり抜けることができたとき、この本は結構むずがゆく恥ずかしく、心に沁みる作品になると思います。ぜひご一読をwww

(2008.11 マガジンハウス)
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