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『月蝕島の魔物』 田中芳樹 著

2009/01/14(水) 11:38:44 田中芳樹 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
 さすが御大!田中ワールド炸裂です!
 それがまた、めっちゃくちゃ面白いんですからもう!
 このミステリーYA!は十代の読者が対象ということですが、いえいえ私のようなオバチャンでも充分に愉しめます♪
 とにかく、1人でも多くの人に読んで欲しい作品。
  なるべくネタバレにならないように、ご紹介したいと思います。



2006年に、同じくジュブナイルとして講談社ミステリーランドの『ラインの虜囚』を発表、絶賛されて【うつのみやこども賞】受賞という華々しい話が記憶に新しいというのに、おそらくそれよりも更に素晴らしいジュブナイルがまた田中先生によって生み落とされたというのは驚異です。
『ラインの虜囚』も大好きなんですけど、もっともっと面白かったよ!と言ったら失礼でしょうか。

“皆殺しの田中”という異名をもつ田中御大は(大笑)、だからキャラクタの一人一人が生き生きとしていて素晴らしいんです。登場人物の誰かにすっと感情移入して、一緒にわくわくしたりハラハラしたりできる。
読書の愉しさとか醍醐味を、これでもかと味わえるのが田中作品の数々なんですよね。
『ラインの虜囚』に、学校の図書室で出会える子ども達が羨ましい!と書いた書評家さんがいはりましたが、全く同じことがこの『月蝕島』にも言えます。
この作品で、読書の愉しさに目覚める子ども達がきっといる。それはオトナとしてめっちゃ羨ましいことです!
とにかく読んで!子ども達は特に、何度でも何度でも飽きるまで読んで欲しい。
『銀英伝』とか『アル戦』とか『タイタニア』とかは、それからでも遅くないから!

そして大人も存分に愉しい冒険小説。
それは、巻末のあとがきとともに添えられた、とんでもない数の主要参考資料リストや、また歴史上実際にあった出来事がめっちゃ自然に絡ませてあるからで、ファンタジーとしての魔物の存在はゲームで言うならラスボスみたいな受け止め方が多分正解。
アンデルセンやディケンズなどの実在の主要キャラに、フィクションの主人公であり語り手のエドモンド・ニーダムと姪のメープル・コンウェイというコンビが本当に自然に調和していて無理がない。
他にも謎の多い老婦人から諸悪の根源まで、実に見事に書き分けられていてえーとこれは誰だっけ?なんて混乱は全くなし。
中には、コリンズとかポオとか、もうミステリ読みには堪らない名前もちらりちらりと出てきて楽しいったらもう!
実話の部分がかなりあるので、一体どこからが田中先生の創作なのか分からないほどです。

ニーダムとメープルの2人が何故、ディケンズとアンデルセンの2人と共に行動することになったのか、そして何故この一行が月蝕島まで行くことになるのか、とてもとても自然な流れでそうでないとおかしい!と思うくらい。
またこの2大巨匠というかディケンズとアンデルセンもいいコンビで、とんでもなくチャーミングw
確かに世話は焼けるけど、人間的に絶対好きになると断言できるほど魅力的です。
特にアンデルセン(笑)
ふふふ、こんな人が書いた物語なら、もう1回読みたいよアンデルセン童話www
かなり確信を持ってこう思うのは、田中御大によるあとがきから。
なので絶対にあとがきを読んでくださいね!
なるべく、本文を全部ちゃんと読んだ後で★

そうそう、実は私、前半部分で何度もボロボロと泣きました。
この主人公のニーダム君、クリミア戦争の帰還兵という設定です。
戦争小説ではないので、描写はさらりと書いてあるだけですが、それが何故か心にずしんときて、逆に戦争の悲惨さがより胸に迫ってくるような。
そしてこのニーダム君も、やはり戦争で心に深い傷を負っていて、今で言うPTSDの症状が現れます。
戦争の後遺症という、その描き方が見事。きっかけも、記憶のぶり返しも、心の葛藤も。
これだけで1冊書けるほどだと思うのですが、それをあえて抑えた筆致はさすがの一言。
昨年末、『退出ゲーム』という作品を読んで感想文も書きましたが、どうしてもノれなかった部分がベトナム戦争のPTSDでした。
より現在に近いベトナム戦争の方が、100年以上昔のクリミア戦争よりもずっと非人間的で悲惨で人類の汚点の一つだと思うのですが、あの作品ではベトナム戦争はどこまでもミステリの為の小道具でした。全く重みがないし、伝わらない。

ヨーロッパの歴史に疎いというか、あまりのややこしさに理解するのをとっくに放棄した私は、この『月蝕島』で初めてクリミア戦争というものの一端に触れた気がしますが、それがとてつもなく悲しいんです。
未だ中世が残っているような戦争ですが、どうして人間は戦争を繰り返すのか、最前線に立つ兵士と本国の政府とのあまりの乖離、一向に変わらない人間の罪、そういったものを説教臭くなく書けるというのは、やはり田中先生だからでしょう。
『銀英伝』でもとっくりと戦争の愚かさや政治家の愚鈍さを書き切った御大ですが、その筆捌きは全く衰えていませんね。
そしてまた、その『銀英伝』に心酔しているので、この『月蝕島』に出てくるちょっとした船の動きや戦闘シーンも、難なくイメージできましたww

また、田中作品には共通することですが、女性キャラは少ない代わりに、めっちゃキュートで聡明、そして強いんです。このメープル嬢もそう。
ベストパーレ男爵夫人やファランギース、そういう頼もしくて可愛らしい女性。
御大が書きやすいのか、はたまたこういう女性がお好みなのか(笑)

ニーダム君とメープル嬢、ディケンズ先生とアンデルセン先生以外のキャラクタは、その多くが秘密を持つ謎の存在です。
子ども達が読んだら、きっと心から驚くと思う。
…大人には途中でだいたい見当つくってのが、スレた人間みたいというか経験が邪魔してイヤやなあとつくづく思うのですよ(笑)

さてさて、このニーダム・メープルコンビの活躍は三部作だそうで、もうタイトルも決まっています。
第二部の『髑髏城の花嫁』
第三部は『水晶宮の死神』だそうな。
何故もっと早くにこの『月蝕島の魔物』を読まなかったか私。
ごめんなさい田中先生、次からは、発売日に即行買いに走ります!
いつ出るのかなあ…わくわく♪♪


(2007.7 理論社ミステリーYA!)
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