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『カレンダーボーイ』小路幸也 著

2008/09/03(水) 10:37:09 小路幸也 THEME:読んだ本の感想等 (ジャンル : 小説・文学 EDIT
小路さんの作品はどれも、最初の一ページめで、すうっと引き込まれるような気がします。そして、一気に読んでしまう。懐かしい<昭和>といつの間にか馴染んだ<平成>の、どちらも決して突き放していない優しい視線が小路さんの特色だと思います。だから、読者は安心してお話の中に入っていける。現実はとても無情で、小説も救いの無いものが多くて、心が休まらない昨今では、小路ワールドはとても貴重なものです。

小路さんのこれまでの作品を全部読んできて、そしてこの新作『カレンダーボーイ』。
夢中で読み終えた今、泣きそうです。
実際、うるうるしてます。
今までの作品のどれよりも、切ない。救いがないのではなく、私のこの年齢だから実感する、身を切られるような切なさ。
これは、大人の為の物語です。
守るべき人がいて、守りたい何かがある、そして人生の中で後悔しているある一点を抱えている、そんな人のための。



子どもの頃、何かをしくじって、ずっとずっと後悔している。
そういう半生において、タイムトラベル、タイムマシンを考えなかった人はおそらくいないと思う。私もそうです。
もしそれが叶ったら。神様が気まぐれにプレゼントしてくれたなら。タイムスリップできるなら。
私は、どういう修正をするだろう。

このお話の二人の主人公、三都と安斎。またはイッチとタケちゃん。
幼馴染の二人がしばらく別々の道を歩き、ある日また同僚として再会する。
この二人の心には、同じ世界の忘れられない思い出と、少しだけ違う場所がある。その違いを認め共有しているからこそ、隠し事をしている相手を責めないし、先走った行動をとっても怒らない。
そして、何かを得るためには何かを失うことを、理解する。
こんなに悟りきった性格だなんて、良いのか悪いのかわかりませんが、やはり人生の積み重なった年齢に差し掛かるとこういうものなのでしょうか。

この物語の軸は、あの三億円強奪事件。
少し前、違う解釈で映画にもなりましたが、この『カレンダーボーイ』は、あんな力技ではなく、あの時代における三億円という重みに基づいた無理の無いストーリーだと思います。実際、この事件は私の生まれる前に起こった事なので、リアルタイムでどれほどセンセーショナルだったのかは知りません。でも、タイムスリップ出来たなら是非その場に立ち会いたい、そんな気持ちにさせられます。
北海道から東京に引っ越していった里美ちゃんの、背負わされたものは余りに重い。だから、その真相を知っていたイッチも知らなかったタケちゃんも、確かに救い出したのですね。

何かを得ることは、代わりに何かを失うこと。
過去を修正することは、未来を歪めること。

この原則に則ったならば、イッチとタケちゃんの、三都と安斎のこの結末は当然なのかもしれないけれども、それでも。

守りたい家族、守りたい何か。救いたい誰か。大好きな人たち。宝石のような記憶。

それらと決別しなければならない、覚悟。

現代の安斎家とそれにまつわる人々の描写が詳しく書いてあるのに比べ、三都家の方がちっとも出てこないけど…?と思ったら、こういう結末だったんですね。
この場合、一番哀しいのは、誰なのでしょう…。過去を変えた為に“歪んだ”結果、架空の存在になってしまった、家族なのではないでしょうか?

“家族”の立場にいる私から見れば身勝手な男たちだけれども、その上で。

果たして、神様のプレゼントに乗っかった行動は正しかったのか、余計なことだったのか。唯一の言葉は、三都の「何も後悔していない」と安斎の「そっちの天気は、どうだ」。変わらないでいて欲しい、二人の絆。

実は、この二人とは別に、その後のエピソードを知りたかった登場人物がわんさかいます(笑)。
アナザーストーリーとして書いてくださらないでしょうか、小路さん。(…それでなくてもお忙しいのに何言ってるかな私)。
それはともかく。

『東京バンドワゴン』シリーズが、あたたかい陽だまりのような世界なら。

『カレンダーボーイ』は、セカチューなんて笑っちゃうわぐらいの、切なさに満ちています。


人生の岐路に差し掛かった人には特に読んで欲しい、そんな小説です。


(2007.11.11)
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